はじめに
靴を履くときに、その靴が服装に合っているかどうか、考えたことはありますか。
「ビジネスではとりあえず黒い靴を履いておけばいい」と、カントリーシューズやローファー等を履いているビジネスマンをよく見かけます。
靴は、デザインや色、革の種類によってフォーマル度合いに違いがあります。
今回は、靴と服装の正しい組み合わせを解説したいと思います。
雑誌やピッティウォモ PITTI UOMO (イタリアで催される展示会)では、この記事で解説する靴と服装の組み合わせとは異なった装いがされていることもあると思います。
服を大量に売るためには真新しい装いを紹介したり、トレンドを作ったりする必要があるからです。
①フォーマルシューズ・内羽根式編
②外羽根式・モンクストラップ編
③ウィングチップ・ノルウィージャン編
④ローファー編
⑤まとめ編
の5回に分けて、伝統的かつ保守的な基準で、靴と服装の正しい組み合わせを解説します。
〈フォーマル度合い〉
靴のデザインをフォーマル度合いが高い順に並べて解説します。
色によってフォーマル度合いは大きく変わってきますので、ここでは、黒のスムースレザー製とします。
下に行くほどスポーティーになっていきます。
1.フォーマルウェアに用いる靴
2.内羽根式の靴(セミブローグまで)
3.外羽根式の靴(セミブローグまで)
4.モンクストラップ
5.ウィングチップ
6.ノルウィージャン
7.ローファー
内羽根式と外羽根式といった用語については次の記事で解説しています。
細かい説明を飛ばして、靴と服装が合うか合わないかが知りたい方は、「靴と服装の正しい組み合わせ⑤まとめ編」を確認してください。
①オペラパンプス Opera Pumps
オペラパンプスは、黒のパテントレザー(コーティングされたレザー)にシルク等でできたリボンをあしらったパンプスです。
パテントレザーを用いるのは、女性とダンスをした際にドレスを靴墨(乳化性クリーム、油性クリーム、油性ワックス等色のついた革靴に塗るクリーム状のもの)で汚さないようにするためと言われています。
オペラパンプスは宮廷服 court dress の名残であり、19世紀前半にはパテントレザーのオペラパンプスが履かれていました。
〈デザインとレザーの組み合わせの代表例とそれに適した場面、服装〉
オペラパンプスは礼装用の靴であり、formal wear (white tie, black tie)以外の服装には適していません。
〈主な既成靴〉
Crockett & Jones PUMP
②内羽根プレーントー Oxford
メンズドレススタイルにある程度関心がある人であれば、ホワイトタイ、ブラックタイの靴と認識しているのではないでしょうか。
詳しく解説すると、黒のパテントレザーを使ったものはホワイトタイ、ブラックタイに適していますが、ホワイトバックス等白のレザーであれば礼装には向かず、スポーティーなスーツやスポーツコート(ジャケパンスタイル)に適した靴となります。
つまり、黒のパテントレザーがEvening wear (夜間の礼装)と関連付けられており、内羽根プレーントー自体に昼夜の別はありません。
内羽根プレーントーがMorning Dress (昼間の礼装)に向かないという認識は誤りです。
〈デザインとレザーの組み合わせの代表例とそれに適した場面、服装〉
黒パテント | 黒スムース | 起毛 | 白 | |
Evening Dress | ○ | × | × | × |
Morning Dress | × | ○ | × | × |
Business Formal | × | × | × | × |
Suit(SS/AW) | × | × | ○ | ○/× *1 |
Sport Coat(SS/AW) | × | × | ○ | ○/× *1*2 |
*1 白または白のコンビ靴は、温暖な気候やスポーツと関連付けられ、冬場には基本的に着用しない。
*2 秋冬であっても、ホワイトトラウザースといったスポーツウェアと組み合わせることは可能。
Business Formal: ネイビー・ミディアムグレー・チャコールグレーで、
無地やシャドーストライプ、ピンストライプ、ペンシルストライプ等柄が控えめな梳毛スーツ
Suit:Business Formal に該当しないスーツ全般。
SSは、主に、シアサッカー、サンクロス等の生地や、リネン、コットン等の素材を使った温暖な気候に合ったスポーティーなスーツ。
AWは、主に、フランネル、ツイード、コーデュロイ等の生地を使った寒冷な気候に合ったカントリーなスーツ。
Sport Coat:上下が共地でない、いわゆるジャケパンスタイル
〈主な既成靴〉
Edward Green CARNEGIE, Crockett & Jones CHEAM
③ホールカット Wholecut Oxford
ホールカットとは、一枚の革で仕立てられた靴です。ここでは、穴飾りのないものと定義します。
ホールカットは内羽根式に分類され、その装飾の少なさから、基本的に内羽根プレーントーとフォーマル度合いは変わりません。
デザインとレザーの組み合わせの代表例とそれに適した場面、服装は内羽根キャップトーと同様です。
2012年公開の映画 007 Skyfall にて主人公ジェームズ・ボンドがブラックタイに黒のホールカットを合わせていたのが記憶に新しいです。
伝統的にはブラックタイにはオペラパンプスやパテントレザーの内羽根プレーントーですが、それらに次いでフォーマル度合いが高いことを示しています。
日本語で書かれたサイトには、ホールカットはフォーマルにもカジュアルにも合う汎用性の高い靴と紹介されていることがありますが、特に黒のホールカットをジーンズに合わせることには違和感があります。
「なんにでも合います」「なんにでも合わせることができます」といった販売員のセールストークに騙されないでください。
フォーマルウェアが昼と夜で厳格に分かれているように、時と所と場合に応じて服装を選択してください。
〈主な既成靴〉
Crockett & Jones ALEX
④内羽根キャップトー(ストレートチップ) Cap Toe Oxford
内羽根キャップトーは内羽根ストレートチップとも呼ばれ、特に黒のスムースレザーのものはビジネスシーンにおける定番の一足です。
日本においてはスエード等起毛素材の靴は、夏場には合わないものと誤解されることがあります。
下のイラストのように、スエード等起毛素材の紐靴は、一年中、履くことができます。
Unlike the Duke of Windsor, suede shoes were considered proper only for country attire. Once he took them to town, however, men immediately recognized the kind of soft elegance a suede shoe could offer in juxtaposition with the severe worsted suit. It remains the most elegant accompaniment to the business suit. The suede tie-up – either a wing-tip or cap-toe – offers practically limitless versatility, for it is a proper complement to as wide a range of wear as that encompassed by a seersucker suit to a sharkskin worsted, in any color from gray to green, in any season. Needless to say, it is probably not the shoe to wear in a stuffy bank atmosphere, or in a drenching spring downpour. But with these exceptions, there is probably no other shoe that can play so many roles in a man’s wardrobe.
Alan Flusser, Clothes and the Man, New York: Villard Books, 1985
ウィンザー公以前には、スエード靴はカントリーウエアにだけ合うものとされてきた。しかし、彼が街着として履くと、人々は厚めのウーステッドスーツにスエード靴が与える柔らかなエレガンスを認識した。今でもビジネススーツには欠かせないエレガントな靴だ。スエードの紐靴は、ウィングチップでもキャップトーでも、無限の可能性を秘めている。シアーサッカースーツからシャークスキンのウーステッドまで、色もグレーからグリーンまで、季節を問わず、さまざまな服装にふさわしい。言うまでもなく、銀行のような堅苦しい雰囲気の中や、春の豪雨の中で履く靴ではない。しかし、これらの例外を除けば、男性のワードローブの中でこれほど多くの役割を果たせる靴は他にはないだろう。
※ウィンザー公:1894年生-1972年没、元英国王で稀代のウェルドレッサー。
1935年春には、それまで流行の先端を行く男たちに好まれていた茶色のバックスキンの靴が、ごく大衆的なものになったと伝えられた。この種の靴はもとはカントリー用を志向したものだったけれども、その年の夏には街ではくものと期待されたのだった。ある業界紙の記者は、ファッショナブルな行楽地と関連させてこの靴の人気の上昇を記述しているが、今日この記事を読む人は、大不況のどん底の時期にそれが書かれたとは到底信じられないだろう。
O. E. Schoeffler, William Gale 著、高山能一訳(1981)『エスカイア版20世紀メンズ・ファッション百科事典〈日本語版〉』スタイル社、p.301
「茶色のバックスキンの靴は、もしそれが1足もなかったらそのワードローブは不完全、とまでいわれるほど英国のみだしなみのよい人たちに受入れられている。昨年の夏、ニューポートの人たちは茶色のバックスキンの靴をはいていたが、メドーブルック(Meadowbrook)とパイピング・ロック(Piping Rock)でも、ポロをやる人たちの間で昨シーズン非常に好まれていて、本当の”会員”といえる人はみな茶色のバックスキンの靴をはいていた。2月にパームビーチからきた報告では、セミノール・クラブ(Seminole Club)とその他のファッショナブルな場所の、最高級のスマートな服装をした男たちは、ゴルフ用だけではなく一般の昼間の装いにも、茶色のバックスキンをはいているとのことであった。エイキン(Aiken)でシーズンを過ごす、いわゆる競馬族と呼ばれる豊かな人たちは2月と3月に、この種の靴への好みを見せていた」(『メンズウエア』誌1932年4月20日号)
〈デザインとレザーの組み合わせの代表例とそれに適した場面、服装〉
黒スムース | 茶スムース | 起毛 | 白 | |
---|---|---|---|---|
Evening Dress | × | × | × | × |
Morning Dress | ○ | × | × | × |
Business Formal | ○ | ○ | × | × |
Suit(SS/AW) | × *1/○ | ○ | ○ | ○/× *3 |
Sport Coat(SS/AW) | × *1*2/× *2 | × *2 | ○ | ○/× *3*4 |
*1 黒は重たい(重厚な)印象を与え、夏場には基本的に着用しない。
*2 ネイビーブレザーを使った畏まった服装と組み合わせることは可能。
*3 白または白のコンビ靴は、温暖な気候やスポーツと関連付けられ、冬場には基本的に着用しない。
*4 秋冬であっても、ホワイトトラウザースといったスポーツウェアと組み合わせることは可能。
Business Formal: ネイビー・ミディアムグレー・チャコールグレーで、
無地やシャドーストライプ、ピンストライプ、ペンシルストライプ等柄が控えめな梳毛スーツ
Suit:Business Formal に該当しないスーツ全般。
SSは、主に、シアサッカー、サンクロス等の生地や、リネン、コットン等の素材を使った温暖な気候に合ったスポーティーなスーツ。
AWは、主に、フランネル、ツイード、コーデュロイ等の生地を使った寒冷な気候に合ったカントリーなスーツ。
Sport Coat:上下が共地でない、いわゆるジャケパンスタイル
〈主な既成靴〉
Edward Green CHELSEA, John Lobb CITY Ⅱ
⑤内羽根クォーターブローグ Quarter Brogue Oxford
トーキャップのみにパーフォレーション(縫い目に沿った穴飾り)があるものをパンチドキャップトーと呼称し、クォーターブローグと分けることもありますが、ここではそれも含めてクォーターブローグと定義します。
基本的にストレートチップとフォーマル度合いはほとんど変わりません。
デザインとレザーの組み合わせの代表例とそれに適した場面、服装は内羽根キャップトーと同様です。
日本語のサイトでは、パーフォレーションがある靴はモーニングドレスに適していないと解説していることもありますが、下のイラストのように、十分適しています。
1958年創業、ロンドンに店を構え、ウィンストン・チャーチル元英首相も顧客の1人に名を連ねるジョージクレバリー George Cleverley はモーニングドレスに適した靴について次のように解説しています。
The rules ルール
・There’s only one rule: the shoes must be highly-polished (but not patent) black Oxfords.
唯一のルールは、よく磨かれた(パテントではない)黒の内羽根式の短靴であること。
Want to change it up? 変えてみたい?
・To add a bit of interest, you could go for an Oxford with a single line of broguing running over the vamp.
ヴァンプに一列の穴飾りが施された内羽根式の短靴を選ぶと、ちょっとした面白さが加わります。Tricker’s トリッカーズの靴(下の写真)について
GQ, “How to get your morning suit right,” 2019.8.21, https://www.gq-magazine.co.uk/article/morning-suit-guide
This particular pair offers the opportunity to go as wild as is possible, while staying in the dress code’s perimeter. They are (slightly) idiosyncratic and still cooly traditional.
この特別な一足は、ドレスコードの範囲内でありながら、可能な限りワイルドになることができます。
少し個性的であり、クールでトラディショナルなデザインです。
〈主な既成靴〉
Edward Green BERKELEY, John Lobb PHILIP Ⅱ
⑥内羽根セミブローグ Semi-Brogue Oxford, Half Brogue Oxford
セミブローグとは、パーフォレーション(縫い目に沿った穴飾り)に加えて、メダリオン(トーキャップに施された穴飾り)がある靴です。
英国のシューメーカーのジョンロブは、自社が製作したタウン用の靴がオリジナルと主張しています。
A light-weight shoe for smart, but not strictly formal, Town wear. This particular style, which has been copied all over the World, was first created by JOHN LOBB some thirty years ago when shoes first began to take the place of boots. It was designed to meet the demand for a shoe less severe then the plain Oxford yet lighter in style and weight than a fully-brogued shoe.
フォーマルではないが、スマートなタウンウェア用の軽量なシューズ。 世界中でコピーされているこの特別なスタイルは、靴がブーツに取って代わり始めた30年ほど前にJOHN LOBBが初めて生み出したものです。これは、プレーンオックスフォードのような厳しさがなく、フルブローグの靴よりもスタイルと重量が軽い靴を求める声に応えるためにデザインされました。
John Lobb, “Black and White Catalogue”
1928年には、注文靴の型の1つとなっていました。
〈デザインとレザーの組み合わせの代表例とそれに適した場面、服装〉
黒スムース | 茶スムース | 起毛 | 白 | |
---|---|---|---|---|
Evening Dress | × | × | × | × |
Morning Dress | × | × | × | × |
Business Formal | ○ | ○ | × | × |
Suit(SS/AW) | × *1/○ | ○ | ○ | ○/× *3 |
Sport Coat(SS/AW) | × *1*2/× *2 | × *2 | ○ | ○/× *3*4 |
*1 黒は重たい(重厚な)印象を与え、夏場には基本的に着用しない。
*2 ネイビーブレザーを使った畏まった服装と組み合わせることは可能。
*3 白または白のコンビ靴は、温暖な気候やスポーツと関連付けられ、冬場には基本的に着用しない。
*4 秋冬であっても、ホワイトトラウザースといったスポーツウェアと組み合わせることは可能。
Business Formal: ネイビー・ミディアムグレー・チャコールグレーで、
無地やシャドーストライプ、ピンストライプ、ペンシルストライプ等柄が控えめな梳毛スーツ
Suit:Business Formal に該当しないスーツ全般。
SSは、主に、シアサッカー、サンクロス等の生地や、リネン、コットン等の素材を使った温暖な気候に合ったスポーティーなスーツ。
AWは、主に、フランネル、ツイード、コーデュロイ等の生地を使った寒冷な気候に合ったカントリーなスーツ。
Sport Coat:上下が共地でない、いわゆるジャケパンスタイル
〈主な既成靴〉
Edward Green CADOGAN, ASQUITH, Church’s DIPLOMAT
①フォーマルシューズ・内羽根式編は以上です。
次は②外羽根式・モンクストラップ編です。
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