はじめに
秋冬に着用するトラウザースの生地といえば、フランネル、コーデュロイ、カバートクロスが真っ先に思い浮かびます。
これらを使ったトラウザースはいわば秋冬の三大トラウザースというべきもので、古くから着用されてきました。
近年、日本の売り場では、秋冬シーズンになると、店頭にフランネルトラウザースが並び、英国回帰の流れでコーデュロイトラウザースも見かけるようになりました。
フランネルやコーデュロイのトラウザースに比べると、日本ではカバートクロスは知名度が低いですが、これらに並ぶ定番品であるカバートクロスのトラウザースをご紹介したいと思います。
カバートクロスとは
Covert とは、フランス語で茂みを意味するcouvert クヴェールに由来し、ハンティングの獲物が隠れる場所を指します。
※1839年創業の老舗衣料品店のCordings 等一部の人々はカバートではなく、末尾のtを読まず、カバーと発音すると主張しています。当記事ではカバートと表記します。
やがてハンティングをする際に着用する乗馬用の上衣に用いる目の詰まった丈夫な綾織り生地をカバートクロスと呼ぶようになりました。
このしっかりと目の詰まった生地は、繁茂した茂みや低木から身を守り、馬にまたがって茂みの中を駆けまわるには最適でした。
ハンティング用途以外に、オーバーコートやトラウザースにも用いられるようになり、前者はカバートコートとして有名です。(今後機会があれば解説したいと思います。)
強度に優れ、シワになりにくいカバートクロスはトラウザースに適した生地といえます。
Tightly woven woolen twill fabric made with two yarns in different shades in the warp and a single color in the filling, resulting in a mixture effect; used for topcoats, sportswear, and suits. It may also be made of fibers such as polyester or spun rayon with wool or cotton. The material was first worn by hunters, and the name is derived from the word “covert” for a hiding place for game.
O.E. Schoeffler, William Gale, Esquire’s encyclopedia of 20th century men’s fashions, New York: McGraw-Hill, 1973, p.654
タテ糸に濃淡の異なる2色の糸を使い、ヨコ糸に単色の糸を使うことでミックス効果を出した、しっかりと織られた紡毛の綾織物で、トップコート、スポーツウェア、スーツに使われる。ポリエステルや紡績レーヨン等の繊維にウールやコットンを混紡したものもある。この素材はハンターが最初に着用したもので、名前は獲物の隠れ場所を意味する”covert”に由来する。
COVERT CLOTH: A midweight overcoating constructed from two yarns of different colors in WARP and single color in FILLING, giving a twilled, mottled appearane. Derived from the French couvert and associated with the riding coats worn by horsemen going into the thickets or “couvert” where the pursued game takes refuge. Covert cloth’s classic shade is a tan with a drab olive cast. Used today in its original 16- to 18- ounce weight for TOPCOATS as well as lighter-weight versions for dress or sport trousers.
Alan Flusser, Dressing the Man, New York: Harper Collins Publishers, 2002, p.283
カバート・クロス:異なる色の2本の糸で織られたタテ糸と単色のヨコ糸で構成され、綾織で、ところどころに濃淡のあるミッドウェイトのオーバーコートの生地。フランス語のクヴェール(couvert)に由来し、雑木林に入る騎手が着る乗馬用コート、又は獲物が避難するクヴェールに関連している。カバートクロスの古典的な色合いは、くすんだオリーブ色を帯びたタンカラーである。今日では、16~18オンスのオリジナル・ウエイトでトップコート用として、またドレス、スポーツトラウザースの軽量バージョンとして使用されている。
フランネルやコーデュロイとの比較
カバートクロスの表面は毛羽立ちのないスムースな仕上がりとなっており、起毛感のあるフランネルやコーデュロイとは見た目が大きく異なります。
カバートクロスは前述のとおり、ハンティングに用いられた生地であり、スムースな表面は茂みを駆けまわっても小枝等が引っ掛からないような工夫といえます。
フランネルやコーデュロイほど暖かそうに見えませんが、目の詰まった生地で風を通しにくく、ウエイトを選べば、十分暖かいトラウザースが出来上がります。
見た目からくる印象は、起毛感がないことやクリースをはっきりと入れられることから、より上品な印象を与えます。

https://rota-pantaloni.com/products/new-york-trousers
しっかりと目の詰まった強度のある生地であり、コーデュロイのようにウエスト調整をしてもミシン目が残らないことから体型が変わっても長く愛用することができます。
着こなし例
カバートクロスはスポーティな素材であり、カバートクロスのトラウザースはツイードやコーデュロイ等のスポーツコートと相性がよいです。

オックスフォードシャツ、
レップタイ、
ブラスボタンの付いたヴェルヴェットの
ウエストコート、
カバートスラックス
(1938.9 esquire)

ナチュラルカラーのカバートクロストラウザース、
オックスフォードボタンダウンカラーシャツ、
マダータイ、チロリアンハット、
茶のスムースレザーのノルウィージャンシューズ
(左の紳士)(1938.5 esquire)

オックスフォードシャツ、
黄色のセーター、フーラードタイ、
カバートクロスのトラウザース、
茶のコインローファー(左の学生)
(1945.9 esquire)

他には、綿のハット、オックスフォードのシャツ、
カバートクロスのトラウザース。
(右の紳士)(1941.4 esquire)

stripe tie; oxford shirt;
covert cloth trousers;
buckskin shoes.
(1938 apparel arts)
おわりに
今回は、カバートクロスのトラウザースについてご紹介しました。
カバートクロスは日本では知名度が低いですが、フランネルやコーデュロイと同様に秋冬のトラウザースの定番です。
カバートクロスはフランネルやコーデュロイと同じくスポーティな素材であり、カバートクロスのトラウザースはツイードやコーデュロイ等のスポーツコートと合わせることができます。
カバートクロスのトラウザースは既製品で見かけることが少ないので、秋冬に向けてオーダーするのもよいと思います。
今回は以上になります。
コメント、リクエストがあればお気軽にどうぞ。
ではまた次の機会に。
コメント