はじめに
今回は、トラッド好きなら一度は手にしたことがあるであろうゴルフジャケットバラクータG9について取り挙げたいと思います。
バラクータとG9の歴史

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簡単にバラクータG9の歴史を紹介します。
- バーバリーとアクアスキュータムのレインコートの製造を請け負っていたジョン・ミラー氏 John Miller とアイザック・ミラー氏 Isaac Miller の兄弟が、防水のノウハウを用い、1937年、自社ブランドとしてゴルフコースで着用できる短い防水ジッパージャケットG9を開発。
- 1938年、ミラー兄弟が入会していたゴルフクラブに所属していたラヴァト卿 Lord Lovat サイモン・クリストファー・ジョセフ・フレイザー氏 Simon Christopher Joseph Fraser から、ラヴァト卿一族のタータンチェックを裏地に使用する許可を得て、G9の生産を開始。
- 1964~1969年にアメリカで放映されたテレビ番組ペイトンプレイス物語 Peyton Place で、ライアン・オニール氏 Ryan O’Neal 演じるロドニー・ハリントン Rodney Harrington がG9を着用し、以降、この形のジャケットはハリントン・ジャケット Harrington Jacket と呼ばれるようになる。



http://clanfraser.org/timeline/1911-1945/
代理店の変遷
1938年に生産を開始したG9は、今日までに幾度となく仕様変更がなされてきました。
日本には1970年代前半頃から正規輸入が開始され、代理店が複数回変更してきました。
代表的なG9のモデルと代理店の変遷についてまとめます。
※以下は、関係者への聴き取り、各種情報等から整理。関係者曰く、数十年前のことであり、記憶の限りとのこと。
①デスモンド・インターナショナル期(1970年代前半頃~)
輸入:垣内商事㈱(明治20(1887)年創業の老舗繊維商社)
販売:㈱デスモンド・インターナショナル(岩久㈱のグループ会社。中牟田久敬氏が創業。)
この時期は、主に、AERO又はoptiの樹脂製シングルファスナーを採用。
AEROの場合、表地綿100%、裏地レーヨン(VISCOSE)100%。
optiの場合、表地綿100%、裏地レーヨン(VISCOSE)51%、ポリエステル49%。
②岩久期(1990年代頃~)
輸入:カキウチ㈱(1987年10月、創業100周年の節目に垣内商事㈱から社名変更)
販売:岩久㈱(IWAKYU CO., LTD.)(1905年創業。グループ会社の㈱デスモンド・インターナショナルの閉鎖に伴い、岩久㈱が販売元になる。岩久㈱は2000年頃に紳士服自体の取扱いを終了)
この時期は、主に、optiの樹脂製シングルファスナーを採用。
表地綿100%、裏地レーヨン(VISCOSE)51%、ポリエステル49%。
③エヌ・ケー・クラシイック期(2000年頃~)
輸入:カキウチ㈱(2003年8月、民事再生手続申立)
販売:㈱エヌ・ケー・クラシイック(1995年9月設立。NKとは、創業者角田登氏(VAN出身)のイニシャル。)
この時期は、主に、optiの樹脂製シングルファスナーを採用。
表地綿100%、裏地ポリエステル65%、レーヨン(VISCOSE)35%。
品質表示タグに㈱エヌ・ケー・クラシイックと記載があるG9は、4年程度しか流通しておらず、約20年前の製品ということもあり、比較的珍しいと思います。
後掲のディテールの紹介では、この時期のG9を使っています。
④ジーアンド・ビー期(2004年5月~)
輸入:丸紅㈱、丸紅ファッションプランニング㈱
販売:㈱ジーアンド・ビー(2015年12月、親会社の山喜㈱に吸収合併)
この時期は仕様が何度か変わっており、ファスナーは次の4種類存在します。
- optiの樹脂製シングルファスナー
- ririの樹脂製シングルファスナー
- ririの樹脂製ダブルファスナー
- ririの金属製ダブルファスナー
optiだから、80年代だ、90年代だと、断定する古着屋さんもいますが、optiは長い間採用されており、品質表示タグに記載の代理店を確認しないと判断できません。
ririダブルファスナー仕様あたりから、ゴルフ用にスイングすることを前提としたちょうちん袖が、細身の袖に変更され、スイングトップから街着へとイメージが変わりました。
⑤スープリームスインコーポレーテッド期(2013年〜)
輸入:八木通商㈱
販売:スープリームスインコーポレーテッド㈱(親会社は八木通商㈱)
この時期は、主に、引き手にブランドネーム・ロゴを刻印したYKKの金属製ダブルファスナーを採用し、表地が綿50%ポリエステル50%になりました。
綿ポリのレギュラーフィットは、身頃もタイトになり、かつてのスイングトップというイメージを一新しました。
一時期、私も所有していましたが、綿ポリの素材が好みに合わないと感じるようになったことや、シルエットがスイングトップではないこと(このシルエットならバラクータである必要がない)、引手が重いこと、引手同士が当たる音が気になること、スイングしづらいこと(ゴルフに使用する目的もあった)から、手放してしまいました。
⑥ウールリッチジャパン期(2018年頃~)
販売:㈱ウールリッチジャパン(2017年12月、設立。親会社は㈱ゴールドウイン)
レギュラーフィットと比べて全体的にゆとりをもたせたオーセンティックフィットが登場。
G9のディテール
G9の特徴的なディテールをいくつかご紹介したいと思います。
フレイザータータン
ラヴァト卿 Lord Lovat サイモン・クリストファー・ジョセフ・フレイザー氏 Simon Christopher Joseph Fraser から許可を得て、ラヴァト卿一族のタータンチェックを裏地に用いています。
このフレイザータータンがG9たらしめているものです。


右:エヌ・ケー・クラシイック期のG9
組成が異なり、右の方が厚みがあってしっかりしている。
色のトーンは左の方が明るい。
ドッグイヤーカラー
襟を寝かせると垂れた犬の耳のように見えることから、ドッグイヤーカラーと呼ばれています。

ボタンを留めることで、風を通しにくくすることができます。

ラグランショルダー(ラグランスリーブ)
スイングしやすいよう、ラグランショルダー*となっています。
*首元から袖がつけられ、肩と袖が一体となった仕立て。

アンブレラヨーク
雨粒をスムーズに流すよう、傘のような波状にカットされたヨーク(生地の切り替え)となっています。
ヨークに隙間があり、その隙間から裏地が覗いて見えます。
これは雨粒を流しながら通気性を確保することを目的としています。



ちょうちん袖
腕2本分が優に入るほどの太い袖が、伸縮性のない布帛のジャケットを着用しながらスムーズなスイングを可能にしています。
袖口のリブのところで生地を絞り、いわゆるちょうちん袖となっています。

スイングしやすい。
個人的にちょうちん袖のG9が好み。
余談だが、布帛であるシャツもある程度肘のところが
太くないと腕が曲げづらく、着づくなってしまう。
最近の既成のシャツは、カフスに掛けて徐々に
袖をすぼめ、肘あたりに十分なスペースが
確保されていないものもある。

中古のG9はギャザーの部分が
破れていることがあるので注意。
斜めに配されたポケット
ゴルフボールやティー等を出し入れしやすいよう、斜めにポケットが配されています。

袖と裾のリブ
風を通しにくくするよう、袖と裾をリブとしています。
体にジャケットがぴったりと沿うことで、スムーズなスイングにも寄与しています。

G9の着方
G9は、ゴルフジャケットとしてスポーティに装うのが本来の着方になります。
ただし、スポーティというのは、決してポロシャツだけを指しているのではありません。
G9の下に着用するアイテム(ネクタイ、シャツ、ポロシャツ、ニット)
かつてはゴルフをプレーする際にネクタイ(あるいはその代わりにシルクスカーフ)を着用することが一般的であり、G9にネクタイを着用することも適しています。
その際は、光沢のあるジャカードやサテンといったドレス度合いの高いネクタイを避け、ウールタイ、ニットタイ、シャンタンタイ、レップタイ、フーラードタイ等を合わせてください。
シャツは、オックスフォードシャツやフランネルシャツといったスポーティなシャツとの相性がよいです。

合わせている。
他には綿のポークパイハット、
レーヨン混紡のスポーツシャツ、
グレンチェック柄のフランネルトラウザース、
ノルウィージャンシューズ。
(1946.4 esquire)

他には、フェルト製ポークパイハット、
ヘリンボーン柄のシェットランドトラウザース、
茶のウィングチップゴルフシューズ。
(1935.2 esquire)

Facebook@thesignetstore
また、現代でもゴルフジャケットの下にニットやポロシャツを着用するように、G9には、ポロシャツやニットも適しています。

合わせている(右の紳士)。
他には、グリーンのフェルト製ハット、
グレーフランネルトラウザース、
ノルウィージャンゴルフシューズ。
(1937.3 esquire)

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G9に合わせるトラウザース、靴下
G9には、フランネル、カバートクロス、コーデュロイといったスポーティなトラウザースが適しています。
それらを着るほど寒くない場合は、それらより薄手の梳毛やリネン、コットンのトラウザースもよい選択肢です。
かつて、スーツ(トラウザースの代わりにニッカーボッカーズの場合も含む)にネクタイを着用してプレーし、現代においても、襟付きのトップスを着用することがドレスコードとされているように、社交の場であるゴルフ場において、他者を不快にさせないよう、身だしなみを整えることが求められてきました。
オーセンティックに装う場合、トラウザースにクリースが入っていることが望ましいです。
※G9をジーンズに合わせるという装いが世の中に存在することを認識しておりますが、あくまでドレススタイルの範疇で解説しており、カジュアルな装いは当サイトで扱う範疇ではありません。

皇太子裕仁親王(のちの昭和天皇)と
プリンスオブウェールズ(のちの英国王エドワード8世、
退位後、ウィンザー公)
http://anatomica-sapporo.com/blog/archives/9241
靴下に関しては、着用するトラウザースに依拠するため、次の記事を参考にしてください。
G9に合わせる靴
G9には、古くからゴルフシューズとして着用されてきたウィングチップシューズやノルウィージャンシューズ等が適しています。
春夏の季節に、ゴルフシューズとして使われることもあった白のレザーシューズや、G9をスポーツコートと考えてコインローファーとともに着用することもよい選択肢です。
選び方の詳細については、次の記事を参考にしてください。

おわりに
今回は、ゴルフジャケットバラクータG9の歴史、ディテール、着方を解説いたしました。
G9に合わせる主な推奨アイテムは次のとおりです。
- ネクタイ:ウールタイ、ニットタイ、シャンタンタイ、レップタイ、フーラードタイ等
- シャツ:オックスフォードシャツやフランネルシャツ又はポロシャツ等
- ニット:プルオーバーニット
- トラウザース:フランネル、カバートクロス、コーデュロイ、それらより薄手の梳毛やリネン、コットン等
- 靴:ウィングチップシューズ、ノルウィージャンシューズ等
当記事で装いの原則を解説しましたが、着こなしという意味では、G9特有のフレイザータータンをどう活かすかという点に触れていません。
フレイザータータンはG9たらしめるものでありますが、これがあるゆえに、着こなしの難易度が高まります。
次回以降の記事では、裏地のフレイザータータンを考慮した着こなしについて考察したいと思います。

今回は以上になります。
コメント、リクエストがあればお気軽にどうぞ。
ではまた次の機会に。
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