靴下の色
手持ちの靴下を並べてみると、そのほとんどが黒、ネイビー、グレーのいずれかの色ではないでしょうか。
黒無地のスーツをビジネスシーンで着用することが日本独自の文化であるように、黒無地の靴下を日常的に身に着けることもまた古典的な装いとは異なります。
伝統的に、黒無地の靴下はホワイトタイやブラックタイを着用するような限られた場面で身に着けられてきました。
今回は礼装を除くドレススタイルに合わせる靴下の色の選び方を解説したいと思います。
①黒無地の靴下を着用しない
冒頭で触れたように、黒無地の靴下は礼装の一部として身に着けられてきました。
日本において、弔事のブラックスーツに黒無地の靴下を合わせるのは適切な装いですが、礼服を除くドレススタイルには着用しないでください。
While appropriate for formal wear and practically obligatory for those swathed head to toe in regulation black, black hose should be avoided at other times.
Alan Flusser, Dressing the Man, New York: Harper Collins Publishers, 2002, p.173.
フォーマルな装いには適しており、頭からつま先まで黒で身を包む場合は義務のようなものであるが、それ以外の場合は黒の靴下を着用すべきではない。
②トラウザースに合わせる
靴下は、靴よりもトラウザースに合わせます。
(もう少し正確に説明すると、靴下がトラウザースよりも靴に合っているという状態にしない。靴下がトラウザースと靴の両方に合っている場合、あるいは、靴下とトラウザースのいずれにも合っていない場合(後述)は可。)
トラウザースと靴下の色相(赤、オレンジ、黄、グリーン、青、紫等の色味)を合わせることで、トラウザースと靴下が自然に繋がります。
靴下と靴を合わせてブーツを履いているように見せるよりも、脚を長く見せたいと思うでしょう。
ただし、トラウザースと靴下を一致させないでください。
ネクタイとポケットチーフの色柄を正確に一致させると野暮ったく見えるように、わざとらしく見えないことが重要です。
例えば、トラウザースと靴下が同じ色相で無地同士にする場合、暗い(又は濃い)トラウザースと明るい(又は薄い)靴下、又はその逆となるように、明度(明るさ)や彩度(鮮やかさ)を変えてトラウザースと靴下に適度な差をつけます。

(1936.11 esquire)

(1938.8 esquire)

(中央の紳士)。(1935.7 esquire)

チェックの種類が異なる。(右の紳士)。
(1938.3 esquire)

グレーのチェックのトラウザースに、
チャコールグレーの靴下(中央の紳士)。
(1934.6 esquire)

トラウザースにミディアムグレーチェックの靴下
(中央の紳士)。(1934.1 esquire)

(1934.7 esquire)
ベージュのトラウザースと茶の靴を組み合わせる場合は注意が必要です。
例えば、ベージュ無地のトラウザースを着用する場合、それに合うベージュの柄の靴下はなかなか販売されていません。
そこで、無地の靴下でベージュのトラウザースと適度な差をつけようとベージュを暗く(濃く)すると、茶の靴下が選択肢となります。
これを選んでしまうと、靴下がトラウザースよりも靴に合ってしまうため、茶の靴下を選ぶのは避けてください。
トラウザースと靴が両方とも茶の場合も留意が必要です。
靴下に茶を選んでしまうと、つなぎのパジャマのように、トラウザースから靴までつながって見えてしまいます。
靴とトラウザースをセパレートするよう、色のトーンや柄を工夫する必要があります。
簡単なのは、こちらも茶の靴下を選ぶのを避けるということです。
つなぎのパジャマ( footed pajamas/ footie pajamas )

https://footedpajamas.com/products/tis-the-season-toddler-fleece-onesie-fl-178-t

トラウザースと靴、靴下のすべてが茶系であるものの、
トーンを変化させることで、トラウザースと靴を
見事にセパレートしています。

グリーン系の靴下(左の学生)。
(1946.9 esquire)
グリーンのトーンがトラウザースと靴を
セパレートする一方、悪目立ちすることなく、
服装全体と調和しています。

トラウザースと靴のいずれの色とも異なる靴下を
履いています。
(1940.9 esquire)
③上半身から色を拾う
「トラウザースと合わせること」以外に「上半身に身に着けているものと合わせる」という方法があります。
靴とベルトの色を合わせるように、互いに距離のあるものの色を合わせることで服装全体に調和が生まれます。
例えば、ネクタイ、ポケットチーフ、シャツ、セーター、カーディガン、ウエストコート(ベスト)、ジャケット、帽子等の色を拾うことです。

(左の紳士)、
ネクタイ、ポケットチーフ、靴下の色(青)が同じ
(中央の紳士)
(1940.3 esquire)

(1938.2 esquire)

(1935.6 esquire)

右:同様(青)(右の紳士)
(1937.6 esquire)

(1936.7 esquire)
④ダークスーツに白の靴下を合わせない

「上半身から色を拾う」方法を使って、白のシャツに白の靴下を合わせようと考えるかもしれませんが、ダークスーツといったドレス寄りのスタイルに白の靴下を着用することは望ましくありません。
スポーツが社交場であった頃から、白の靴下はテニスやクリケット、ヘンリーレガッタ等のスポーツウェアの一部として着用されてきました。
テニスの四大大会の1つであるウィンブルドン選手権では、今なお白いウェアを身に着けることが義務付けられています。
特に、白無地の短靴下はスポーツソックスとして位置づけられており、スポーティ(カジュアル)な装いに適しています。
ビジネススーツに白の靴下を合わせないでください。
白の靴下を着用している、下のイラストを見れば、ダークスーツに比べて随分とスポーツ寄りであることが分かると思います。


おわりに
今回は、靴下の色の選び方を解説いたしました。
まとめると、次のとおりです。
- 黒無地の靴下を着用しない。
- 靴下は、靴よりもトラウザースに合わせる。
- 上半身から色を拾う。
- ダークスーツに白の靴下を合わせない。
次回は、実践編として、具体例を挙げて組み合わせをご紹介します。

コメント
コメント一覧 (2件)
はじめまして。靴下の色味の選び方について大変興味深くお読みしました。
このような内容を見るのは初めてですが、納得いくものです。
たしかに、靴と靴下を同じ色にして、自慢の靴を埋没させるのはつまらない。
せっかくなら靴を引き立たせるべきだと感じました。
そのうえでぜひ以下のことをお聞きしたい。
①スラックスと靴下に明度や彩度のコントラストをつけることを提案なされている以上、色相が同じでもたぶん脚は長く見えないと思います。本記事で例にお挙げになったイラストでも、大半は脚が長くなってるようには見えません。わたしはあまり足を長く見せたいという願望がないのですが、気になりました。ほんとうにこの提案は脚が長く見えますか?
②別記事で濃淡濃、あるいは淡濃淡というスラックスと靴下と靴のコントラストをつけた組み合わせを提案なされています。これが成立しようがない組み合わせ、たとえば白いパンツに黒い靴(あるいはその逆)の合わせは、「そもそもするべきではない」という見解をお持ちですか?
③黒ストレートチップに合わせる靴下について。いくら抑え目なものを選んだとしても、赤や赤紫の靴下はやっぱり目立つと思います。すくなくとも他人から見たら靴よりも靴下に目が行く状態になります。それはそういうコーディネートで良いとお考えでしょうか?
非常に参考になる記事で二、三回読み返すほどですが、同時に疑問も多くわきましたので尋ねてみました。
恐縮ですが、お暇なときに返信いただければとても嬉しいです。
フォローありがとうございます。
質問について回答します。
①について
物理的な変化はなく、視覚効果の範疇であり、人によって効果のほどは様々かと思います。
トラウザースと靴下を全く異なる色にしてハッキリと境界線をつくる場合と、色相を合わせて自然と繋げる場合の差ということになります。
②について
例えば、ホワイトフランネルトラウザース×黒靴という組み合わせは、トラディショナルな装いであり、問題ありません。
ただし、その場合、ネイビーブレザーを合わせるといった黒靴とのドレス度合いのバランスをとる場合が多いです。
黒のトラウザースは、基本的に礼服に用いられるものであり、白靴と組み合わせることは望ましくありません。
濃淡濃、あるいは淡濃淡とすることは、トラウザースと靴下を一致させずに合わせるという原則*のもと、トラウザースと靴下が無地である場合の対応方法という位置づけです。
必ずしも濃淡濃、あるいは淡濃淡としなければならないということではございません。
(*靴下をネクタイに合わせてトラウザースと全く異なる色にするというのも選択肢の一つであることは記事のとおりです。)
③について
靴下ばかりに目が行くことを積極的に推奨しておりません。
赤系の靴下を選ばれるときのポイントを2つ挙げたいと思います。
ご参考にしていただければ幸いです。
➊ブライトな色を避ける
極力暗いトーンを選ぶことで靴下が目立つことが緩和されます。
➋上半身から色を拾う
例えば、ネクタイの色と靴下の色をともに赤系とすることで繋がりを持たせるという方法です。
普段、トラウザースに合わせてグレーやネイビーの靴下を選択していたという方が赤系の靴下に違和感を覚えるのは当然と思います。
慣れもございますので、赤系の靴下と黒靴をうまく合わせている例(例えば、赤峰幸生氏はそのような装いを時々しておられます)を参考に、試行錯誤するとしっくりくる装いが見つかるかもしれません。
以上です。
ご参考になれば幸いです。