ライトニングファスナーのバラクータ

目次

はじめに

今回は、バラクータが日本に正規輸入される前の、ライトニングファスナー Lightning Fastener を使ったバラクータ G9 をご紹介します。

Lightningファスナーとは

田中凛太郎、Derek Harris著(2017)
『Wings,Wheels and Rock’n’Roll vol.1』
Lewis Leathers Ltd.、p.32

Lightningファスナーを語る前に欠かせない、ファスナーの歴史から解説します。

ファスナーの歴史は、アメリカ人のウィットコム・ジャドソン氏 Whitcomb Judson が発明し、特許を取得した1893年に遡ることができます。
しかし、大量生産とコストダウンの難しさから、実用化までには長い年月を要しました。

1910年代に入り、ギデオン・サンドバック氏 Gideon Sundback がウィットコム・ジャドソン氏のアイデアを改良し、それをもとに、1920年ごろ、カイノック社 Kynoch Ltd の英国バーミンガム、ウィットン Witton, Birmingham の工場にてファスナーの生産を開始しました。
カイノック社のファスナー部門は、1926年までには、ライトニング・ファスナーズ社 Lightning Fasteners Ltd として独立しました。

田中凛太郎、Derek Harris著(2017)
『Wings,Wheels and Rock’n’Roll vol.1』
Lewis Leathers Ltd.、p.31


Lightning のブランドは、1922年ごろに生まれ、 Lightning は英国のファスナー業界を牽引するトップブランドとなりましたが、1970年代より安価な海外メーカー品が流通するようになると、1980年、ライトニング・ファスナーズ社は廃業に追い込まれました。

(出所:田中凛太郎、Derek Harris著(2017)『Wings,Wheels and Rock’n’Roll vol.1』Lewis Leathers Ltd.、http://www.staffshomeguard.co.uk/KOtherInformationKynochV2A.htm、http://calmview.birmingham.gov.uk/calmview/Record.aspx?src=CalmView.Catalog&id=MS+1422%2f37等)


Lightning は、主に1920年代~1960年代に流通したブランドであり、古着が好きな人であれば、カウチンセーターに使用されているのを見たことがあるかもしれません。

ライトニングファスナーのバラクータの特徴

ライトニングファスナーを使用したバラクータ G9 には、現行品にない特徴が複数あり、それらを紹介しようと思います。

①Lightning ファスナー

ピンロック(片爪)がある
コの字留め

現行品は、バラクータのロゴ入りのYKKのファスナーですが、1970年代初期、日本に正規輸入が開始されたあたりではAERO、その後opti、riri、YKKとファスナーは変更されてきました。
Lightningは、AERO以前のファスナーであり、Lightningファスナーのバラクータは、1970年代初期あたりより前に生産・流通していたものとなります。

1963年に発刊されたLIFEの表紙を飾った有名なマックイーン氏の写真では、これと似たファスナーのG9を着用しています。

金属製の扇形の持ち手が確認できる。


また、この形のLightningファスナーは、主に1940年代~1950年代に生産・流通されていたファスナーに酷似しています。

写真中央のファスナーに酷似している。
(刻印の深さは異なるように見える。)
田中凛太郎、Derek Harris著(2017)
『Wings,Wheels and Rock’n’Roll vol.1』
Lewis Leathers Ltd.、p.33

しかし、1960年代の製品にも使われることもありました。

これらの情報から、若く見積もって1960年代、古く見積もると1940年代ごろのG9と推定できます。

②2段リブ

昔のモデルはこのように2段リブになっていました。
生産効率を優先するためか、1970年頃からなくなってしまったディテールです。

2段リブのG9を着用したスティーブ・マックイーン氏
(1963年)

③貫通したアンブレラヨーク

G9の背中には、雨粒をスムーズに流すよう、傘のような波状にカットされたヨーク(生地の切り替え)があります。
写真のように、古いG9は、ヨークの隙間が貫通しており、通気性を確保しています。
雨の中、ゴルフをプレーしたときに湿気がこもって蒸れてしまうのを軽減する、防水ゴルフジャケットとして誕生したG9らしいディテールです。

こちらも生産効率を優先するためか、なくなってしまったディテールになります。
このディテールは、AEROファスナーのG9で採用されているものもあり、おそらく70年代中期ごろまで採用されていたものと思われます。

④横長のブランドタグ

5cm×5.5cmの小さいタグ

現行品のブランドタグは、縦長ですが、古いG9は横長でした。(一時期、㈱ジーアンド・ビーが販売していた頃のririの金属ダブルファスナーのG9も横長でした。)
AEROファスナーのG9で横長のブランドタグも見かけることから、おそらく70年代中期ごろまで横長のブランドタグであったと思われます。

⑤表地と同じ素材でできた袋布

写真のように古いG9は、ポケットの袋布が表地と同じ素材でできています。
(写真のように色はやや違います。)
外観から認識できるところではありませんが、表地と同じ素材を見えないところにも贅沢に使っているとして、着ている本人が満足感を得られるディテールです。
こちらもおそらく70年代中期ごろにはなくなってしまいました。

⑥リブの横まで繋がった裏地

現行品は、リブの上で切り返しとなっていますが、古いG9ではリブの横まで裏地があります。
これは、岩久㈱が販売元になっていた時期のG9にありましたが、㈱エヌ・ケー・クラシイックが販売元になっていた時期のG9にはないディテールであることから、2000年頃にはなくなってしまいました。

おわりに

今回は、ライトニングファスナーを使ったバラクータG9をご紹介しました。
次のような現行品との違いがあります。

  1. Lightning ファスナー
  2. 2段リブ
  3. 貫通したアンブレラヨーク
  4. 横長のブランドタグ
  5. 表地と同じ素材でできた布袋
  6. リブの横まで繋がった裏地

これらの多くは、生産効率やコストダウンを追求した結果、失われていったディテールだと考えられます。
「昔の商品はつくりがいい」なんて言うことがありますが、ヴィンテージ品を手に取ると、今よりも手間をかけてつくられていることに驚かされることがあります。

今もG9は人気商品で、BEAMSやマーガレット・ハウエル等の別注品が生産されたり、フォークライムスコレクションが始動したり、様々な新しい商品がリリースされています。
新しいデザインにもよさはありますが、オーセンティックなものに強い魅力を感じます。
昔のディテールを取り入れたオーセンティックな商品を復刻してほしいものです。

今回は以上になります。
感想、リクエストなどお気軽にコメントください。
ではまた次の機会に。


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