夏に相応しいネクタイ シャンタンネクタイ

目次

はじめに

今回は、夏を代表するネクタイの一つである、シャンタンタイを解説したいと思います。

シャンタンタイとは

シャンタン shantung は、緯糸(よこいと)に不均一なシルクのスパン糸*1や玉糸*2を使った織物で、生地の表面に不規則な筋があるのが特徴です。
*1 短繊維から紡績によって作られた糸。シルクのスパン糸は、カイコが出た後の繭や蛹肌(さなぎはだ。繭の最内層)、生糸をつくる際に生じるくずの絹繊維等、繊維を長く巻き取ることのできない短い繊維を紡いだ糸。
*2 2匹の蚕によって作られた繭を原料として作られた節のあるシルクの糸。

シャンタンのように不規則な筋のある織物で、デュピオニ duppioni というものがありますが、これは、前述の玉糸を緯糸に使った織物になります。(シャンタンと区別することもありますが、デュピオニ⊂シャンタンと捉えることもできます。)

そのほかに、タッサー Tussah という織物があります。
タッサーは、野蚕(やさん、屋外で生育する蚕)の繭を原料に生産された織物で、原料に焦点を当てた分類ということになります。
タッサーの中には、蛾が飛び立った後の繭を原料にしたものがあります。
この繭からは繊維を長く巻き取ることができず、スパン糸に加工され、結果としてシャンタンと似た織物となるタッサーもあります。(この場合は、タッサー⊂シャンタンと捉えることもできます。)

Drake’sのタッサーシルクネクタイ
https://www.crucianiebella.com/products/
drakes-thussah-silk-purple-unlined-tie-5349
見る角度によって色が異なって
見えることも特徴の一つです。

シャンタン Shantung という名称は、絹の主産地であった中国の山東省 Shandong に由来するといわれています。

シャンタンタイの広告。
中国をイメージしたイラスト。
(1955.7 esquire)

シャンタンをつかったネクタイのことを、Shantung tie, Shantung silk tie 等と呼びます。
シャンタンタイは、伝統的に春夏の暖かい気候に着用され、春夏の代表的なネクタイです。
近年では、ざらざらとした素材感がフランネルやツイードに合うと解釈され、秋冬にも着用されることがあります。

着こなし例

シャンタンタイは、そのざらざらとした素材感から、滑らかなネクタイよりもスポーティな印象を与えます。
レップタイやフーラードタイとともに、ゴルフをプレーする際に着用されることもありました。

異常な暑さのためにネクタイをしているゴルファーは僅かだったけれども、ヘイゲン、サラゼン、ファレルといったよく知られたプロ・ゴルファーは主にクレープ、薄絹地、シャンタン、レップといった組織の絹のタイをつけるのを好んでいた。

O. E. Schoeffler, William Gale 著、高山能一訳(1981)『エスカイア版20世紀メンズ・ファッション百科事典〈日本語版〉』スタイル社、pp.407,408

シャンタンタイは、シアサッカー、サンクロス等の生地や、リネン、コットン等の素材を使った温暖な気候に合ったスポーティなスーツ、スポーツコートと相性がよいです。
また、滑らかなウーステッドスーツとラフなシャンタンタイを組み合わせることで、装いに適度なメリハリをつけることができます。

グレーのトロピカルウーステッドスーツに、
ネイビーのシャンタンタイ(右の紳士)。
オックスフォードシャツ、白いドット柄のポケットチーフ、
リバースカーフシューズ。
(1935.7 esquire)

ツルっとしたスーツ生地に、
シャンタンタイのラフな素材感が妙味を生みます。
シルク素材のスーツに、シャンタンタイ(右の紳士)。
茶色のチェック柄のオックスフォードシャツ、
サドルシューズ。(1935.8 esquire)
シルク、リネン混紡のパームビーチクロスの
スーツに、シャンタンタイ。
(1939.1 esquire)
https://www.paoloalbizzati.com/
blogs/style-guide/the-italian-shantung-silk-tie
梳毛生地にシャンタンタイを合わせている。
すべてストライプ柄だが、ストライプの幅に
差をつけることでうまく合わせている点にも注目。
シアサッカーに、シャンタンタイ

おわりに

今回はシャンタンタイについて解説しました。

5年ほど前には、シャンタンタイが店頭に並んでいるのを見かけましたが、近年はあまり見られず、認知度が低いように感じています。

春夏でもネクタイを締めるというドレスクロージングが好きな方には是非おすすめしたいネクタイです。

今回は以上になります。
コメント、リクエストがあればお気軽にどうぞ。
ではまた次の機会に。

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コメント

コメント一覧 (3件)

  • あけましておめでとうございます。

    前にウールネクタイの記事で、あくまでもウールのネクタイはウィークエンド向けと書かれていたかと思います。

    フランネルのスーツ(グレー無地など派手でないもの)も平日の仕事着には本来不向きでしょうか?次の冬はタートルネックと合わせて着ようかと考えておりました。
    基本的なことで恐縮ですが、教えて頂けると嬉しいです。

    • あけましておめでとうございます。

      ビジネスシーンにグレー無地といったフランネルスーツを着用することが本来不向きということはございません。

      ただし、職場の規程や慣習によっては推奨されない場合もあると思います。
      例えば、茶のグレンチェック柄のスーツがビジネスシーンに用いられることもありましたが、日本のお堅い職場では受け入れられないこともあると思います。
      逆に、スーツでなくてよいという職場であれば、コーデュロイのジャケットにウールのネクタイという装いも問題なく受け入れられることもあると思います。
      したがって、現代において、古典的な視点で着用シーンと装いを明確に関連付けることが中々難しくなっています。
      基本的にはその場のドレスコードに合わせることになろうかと思います。
      (「ウールのネクタイはウィークエンドに相応しい」との一文だけ読んでしまうとミスリードしてしまう可能性があることを反省しました。
      本来の趣旨は、本文記載の「ウールのネクタイは、 チェック柄や紡毛、コーデュロイ等、スポーティなスーツやジャケットに合わせるものです。」ということです。余計な一言として削除いたしました。)

      一方で、アイテム同士の組み合わせについては、原則が存在します。
      コメントいただいたように、例えば、ウールのネクタイとピンストライプの梳毛スーツという組み合わせは不適といったことです。
      当サイトではこのような装いの原則を取り挙げてまいります。

      話を戻すと、古典的な視点で、グレー無地のフランネルスーツがビジネスに不適ということはありませんし、
      タートルネックが大丈夫であれば、無地のフランネルスーツは問題なさそうな気がしますね。(職場の規程や慣習にはご留意ください。)

      本年もどうぞよろしくお願いいたします。

      • 早速のご回答、ありがとうございます。
        現代において、古典的な視点で着用シーンと装いを関連付けるのは難しいとのお言葉、その通りだと思いました。

        何となく感じていたのですが、こうして言語化して頂けると確信を持てて良かったです。
        競馬場にクラシックスーツで来る人はほぼいないですし。

        私の個人的な事情だと、ウォームビズとして、タートルネックを推奨されつつあるのです。
        せっかくタートルネックを着るのであれば、少しでも原則にマッチした装いをしたいと思いつつ、根本的な勘違いをしていないか不安だったので質問しました(懐的に安い買い物ではないので…)。

        置かれた境遇を鑑みて、自分なりにクラシックを解釈して装いを作るのが愉しみなんでしょうね。

        大変参考になりました。引き続き勉強させて頂きます。
        今年もどうぞよろしくお願いします。

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