標準的なラペル幅

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はじめに

スーツの印象を大きく左右するものにラペル(下襟)があります。

細いラペルからモダン、スマート、若々しさ、太いラペルから威厳、華やかといったポジティブな印象を抱く方もいる一方、細いラペルから貧相、太いラペルから古臭い、仰々しいといったネガティブな印象を抱く方もいるかもしれません。
人によって抱く印象が180度異なるのは、”流行り”の影響があります。
特に、ラペル幅はスーツの印象を大きく変えることができ、真新しさを演出しやすいことから、時代とともに広くなったり狭くなったりしてきました。

流行を追って最先端のものを身につけることは否定しませんが、流行に左右されずに、良質なスーツを長く着用するには、細くもなく、太くもない標準的なラペル幅を選択することになります。
では、標準的なラペル幅はどれくらいでしょうか?
8cmが標準と言う人もいれば、8.5cmが標準と言う人もいます。

ここで、もう一つ困ったことがあります。
人によってラペル幅といって指しているところが異なることです。
ゴージラインに沿って測ったときの幅、ラペルの頂点からVゾーンに対して水平に測ったときの幅、又はラペルの頂点からVゾーンに対して直角に測ったときの幅と様々な解釈があります。

「ラペル幅は○センチが正しい」というのは実にいい加減な指標だということが分かるかと思います。
そもそも、体の大きさは千差万別であるにもかかわらず、体との比較なしに、長さを決めること自体がナンセンスです。

今回は、標準的なラペル幅を解説したいと思います。

基準

これまで様々なジャケットを見る中で、感覚的にラペルの広狭を会得してきました。
この感覚を人に伝えようとするときに、しっくりくるのが次のアラン・フラッサー氏の言葉です。

良いラペルとは、カラーとショルダー・ラインのちょうど真ん中からほんの少し手前でとまっているラペルのことです。

Alan Flusser 著、水野ひな子(1988)『CLOTHES AND THE MAN アラン・フラッサーの正統服装論』株式会社 婦人画報社、p.32

これは、○cmという数字ではなく、ジャケットを着る人の体格をきちんと考慮した基準です。

次の2枚の写真は、細くもなく、太くもないと感じるラペル幅のジャケットです。

ウィンザー公
ラペルは、上襟とショルダーラインの中間点に達していない。
チャールズ皇太子
ラペルは、上襟とショルダーラインの中間点に達していない。

両者のジャケットのラペルは、カラーとショルダー・ラインの真ん中から少し手前でとまっています。

次の写真の人は、ぱっと見でラペルが太いと感じるスーツを着ています。
カラーとショルダー・ラインの真ん中に達しています。

ワイドラペル
ラペルは、上襟とショルダーラインの中間点に達している。

次の写真は、007を演じたショーン・コネリーです。
当時からナローラペルと言われていました。
カラーとショルダー・ラインの中間点とラペルの間には随分距離があります。

ナローラペル
上襟とショルダーラインの中間点とラペルの間に随分距離がある。

細くもなく、太くもない標準的なラペルは、上襟とショルダーラインの中間点に達していないのが見てとれました。
太いラペルは、上襟とショルダーラインの中間点に達し、細いラペルは、その中間点に対して随分距離があることが分かりました。

この基準を使ってラペルの広狭を確認するときの留意点を2つ挙げておきます。
1つは、ボタンを留めて、できるだけ正面から確認してください。
申し上げるまでもなく、横から見ると正しく判別できません。
また、ふくよかな人はボタンを留めていないと、ジャケットが前方に膨らみ、正面から見たときに、ラペルが肩に近いように見えてしまいます。

2つ目は、主にダブルブレステッドに採用されるピークドラペルは、ノッチドラペルよりも太いことが一般的です。
ダブルブレステッドであれば、打ち合わせが深いため、ラペルが太くなるのは必然と言えます。
ラペルが上襟とショルダーラインの中間点に触れるくらいであれば、ピークドラペルにしては太くないという場合もあります。

おわりに

数年前から、イタリア製の太いラペルのジャケット・スーツをよく見かけます。
これらは、多くの人に対して華やかな印象を与えることができています。
ただし、何年かすると、古臭い印象を与えるときが来るかもしれません。
かつて9~10cmの太い大剣幅のネクタイが流行ったように、流行りは必ず廃れます。

今回ご紹介した基準を用いることでタイムレスな標準的なラペル幅のジャケット・スーツを選ぶ手助けになれば幸いです。

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