はじめに
今回は、手持ちのバルマカーンコートの中から、バラクータ Baracuta の年代違いのコートを比較しながらご紹介します。
こだわり
バルマカーンコート、正確には、綿素材のバルマカーンコート、いわゆるレインコートといえば、バーバリー、アクアスキュータム、グレンフェルが代表格です。
歴史あるメーカーで、人と被らないものをと考えたときに行きついたのが、バラクータです。
バラクータとは
簡単にバラクータの紹介です。
- バーバリーとアクアスキュータムのレインコートの製造を請け負っていたジョン・ミラー氏 John Miller とアイザック・ミラー氏 Isaac Miller の兄弟が、防水のノウハウを用い、1937年、自社ブランドとしてゴルフコースで着用できる短い防水ジッパージャケットG9を開発。
- 1964~1969年にアメリカで放映されたテレビ番組ペイトンプレイス物語 Peyton Place で、ライアン・オニール氏 Ryan O’Neal 演じるロドニー・ハリントン Rodney Harrington がG9を着用し、以降、この形のジャケットはハリントン・ジャケット Harrington Jacket と呼ばれるようになる。
元々はレインコートを専門にしていたという歴史や、バラクータといえばハリントンジャケットであり、現在ではバラクータのレインコートは少しマイナーというのが、自分にとって魅力的でした。
バーバリー(1856年)、アクアスキュータム(1851年)、グレンフェル(1923年)に比べてバラクータは新しいメーカーですが、それでも90年弱の歴史があります。
※余談ですが、「グレンフェルは1890年フェイソン・スウェイトによって設立された。」と間違いを紹介する日本語サイトが多いです。
公式サイトに従って、グレンフェルのブランド設立の経緯を説明すると次の通りです。
製織工場を経営していたトーマス・ヘイソーンスウェイト Thomas Haythornthwaite の息子、ウォルター・ヘイソーンスウェイト Walter Haythornthwaite がカナダのニューファンドランド島という極寒の地で医師として活躍していたグレンフェル卿 Sir Wilfred Grenfell の講演に感銘を受け、過酷な環境に耐えうる生地の開発に着手。開発した生地はグレンフェル卿にテストをしてもらい、卿から名前を借り受けてグレンフェルクロスとして発表した1923年がグレンフェルブランドの出発点としています。
トーマス・ヘイソーンスウェイトが工場を設立したのは1908年です。
ちなみに、ニューファンドランド島の沖合は、タイタニック号が氷山にぶつかって沈没した場所です。
バラクータについても、事実と異なる内容を紹介する日本語のサイトもあり、公式サイトや英語で書かれたサイトを見てほしいと思います。
素材は綿100%
素材は、現行品のポリエステル混紡ではなく、後掲の2着のコートは綿100%です。
私はポリエステル混紡の硬い素材感がどうも苦手で、綿100%にこだわりました。
ポリエステル混紡のパリッとしたビジネスライクなコートより、くたっとした自然なシワのある綿素材のコートが好きです。
裾までチェックの裏地
レインコートの醍醐味はやはりチェックの裏地です。
バラクータのアイコニックなフレイザータータンがちゃんと裾まであるものを探しました。
(手持ちの1つである、2018AWのBEAMS PLUS別注のG10はフレイザータータンではなく、ブラックウォッチ柄。)
フレイザータータンがちゃんと裾まであるものは、近年は販売されておらず、イギリス製に限定すれば、恐らく、1970年代後半~1980年代前半に販売されていた手持ちのコートに遡ります。
膝丈・膝下丈
強風雨を防ぐコートとして誕生した背景から、バルマカーンコートはやはり膝丈・膝下丈が欲しいです。
もちろん、今風に着るなら膝上丈でも良いですが。
現行品では、膝上丈となっています。
ディテール
手持ちの2つのバラクータのレインコートを比較しながらディテールを見ていきたいと思います。
1つは、1970年代後半~1980年代前半に販売されていたデスモンド・インターナショナルが総発売元のG7というモデルのコート(以下、オリジナル品)。
バラクータG9であれば、襟吊りのMade in England の文字がサンセリフ体の角ばった文字で、AEROジッパーが付いていた頃のモデルです。
もう1つは、2018AWのBEAMS PLUS別注のG10というモデルのコート(以下、別注品)。
いずれも、 Made in England で、表地は綿100%です。
裏地
オリジナル品はアイコニックなフレイザータータン、別注品はブラックウォッチ柄です。
このフレイザータータンは、ミラー兄弟が入会していたゴルフクラブに所属していたラヴァト卿 Lord Lovat サイモン・クリストファー・ジョセフ・フレイザー氏 Simon Christopher Joseph Fraser から許可を得てトレードマークとしたラヴァト卿一族のタータンチェックです。
http://clanfraser.org/timeline/1911-1945/
裏地の素材に目を向けると、オリジナル品はヴィスコース(レーヨン)100%、別注品は綿100%です。
この素材によって、仕様に差があります。
オリジナル品は、裏地がふらしになっています。
ふらしとは、裏地の裾を表地と張り合わさない仕立てです。
表地が綿100%、裏地がヴィスコース100%と素材が異なるため、縮率(生地を洗濯したときに生地が縮む割合)が表地と裏地で異なります。
仮に、裏地の裾を表地と張り合わせていた場合、膝丈ほどの長さの生地であれば、少しの縮率の違いが大きな差になり、縮率が大きい生地側に縮率が小さい生地が引っ張られて、シルエットが崩れてしまいます。
このような縫製の工夫は、高級服に見られるような手の込んだ仕様と言えます。
別注品は、表地も裏地も綿100%と縮率に大きな違いはなく、流し込みといって、裏地の裾を表地と張り合わせた仕立てとなっています。
アンブレラヨーク
アンブレラヨークと呼ばれる、雨粒をスムーズに流すための傘のような波状にカットされたヨーク(生地の切り替え)もバラクータの特徴的なディテールです。
オリジナル品のアンブレラヨークを見てみると、ヨークに隙間があり、その隙間からすぐに裏地が覗いて見えます。
これは雨粒を流しながらも通気性を確保するディテールです。
ヨークの隙間からフレイザータータンが覗く。
一方、別注品のアンブレラヨークは、ヨークの一部の隙間を除くと、裏地が見えません。
ヨークの部分が表地が二重になってしまっており、通気性の確保という機能が形骸化してしまっています。
シルエット
オリジナル品は、別注品に比べて全体的に細身であり、緩やかなAラインです。
別注品は、強いAラインが特徴的です。
サイズ表記は、オリジナル品が38、別注品が36ですが、オリジナル品の方が細身で、丈が短いです。
余談ですが、オリジナル品のコートと同じ年代に発売されていたG9(襟吊りのMade in England の文字がサンセリフ体の角ばった文字で、AEROジッパーが付いているもの)も歴代モデルと比べて、ワンサイズくらい細身にできています。
裄丈も、オリジナル品は短く、別注品は長かったため、自分に合うよう、オリジナル品を袖出し、別注品を袖詰めをしています。
直していない身幅(脇下を測定)と着丈(背中側を襟下から測定)は次の通りです。
身幅 | 着丈 | |
---|---|---|
オリジナル品 | 56.5cm | 97cm |
別注品 | 58.5cm | 102cm |
また、同じハンガーに掛けているのにも関わらず、オリジナル品の方が肩が張っているのがわかりますか?
これはツノを出すと言って、コートの下に着るジャケットの肩を収めるスペースをつくっているのです。
昔のスーツは肩パットがしっかり入っているのが一般的であり、このようなパターンがよく見られました。
肩パットのあるスーツの上にコートを着る場合、きれいなシルエットで着用することができます。
一枚袖という言葉を最近よく耳にすることが多いと思います。
ちなみに、この一枚袖はツノを出すことができません。
ツノのないコートは、きれいに肩を落とすことができ、肩パットがほとんどないジャケットやニットの上にコートを羽織るといった畏まっていない装い、所謂ヌケ感のある着こなしには相性が良いです。
ただ、一枚袖にこだわらなくても、写真の別注品(二枚袖)のように、きれいに肩を落とすことは可能です。
ベルト
オリジナル品の腰ベルトは、シンプルに、バックルと帯となっています。
一方、別注品の腰ベルトは、ベルトループに引っかけてボタンを留めることで、ベルトが落ちないように工夫されています。
いずれもベルトに穴はありません。
品質表示タグ
別注品は、現行品と同様に、品質表示タグが見えないよう、品質表示タグを収納できるようになっています。
手の込んだ仕様です。
次の記事でご紹介したコンバーチブルカラー 、ラグランショルダー(ラグランスリーブ)、貫通ポケット、袖のタブ 、比翼仕立てといったバルマカーンコートの特徴的なディテールは、オリジナル品、別注品ともに共通しています。
おわりに
今回はバラクータの綿のバルマカーンコートをご紹介しました。
レインコートの代表格である、バーバリー、アクアスキュータム、グレンフェルのいずれもレインコートの裏地にチェック柄を採用しています。
アクアスキュータムの「クラブチェック」は1976年、創立125周年を記念して、レインコートの裏地として導入されました。
カラー構成は、英国の格式高いクラブのブレザーの色を表したネイビー、アクアスキュータムの原点ともいえるトレンチコートの代表色のベージュ、素材や生地そのものの質感を大切にする意味が込められたビキューナのブラウンです。
(THE CLUB CHECK STORY https://aquascutum.jp/aq/blog/clubcheck.html)
また、バーバリーとのライセンス契約が終了した三陽商会は新たに三陽格子を開発しました。
これは、日本の伝統芸能である歌舞伎に用いられる翁格子が元となっています。
(歌舞伎の衣裳「翁格子」を「100年コート」の裏地等に採用 https://www.sanyo-shokai.co.jp/brand/news/2015/09/04.html)
これらチェック柄はブランドアイデンティティと言えるもので、レインコートにはなくてはならないものだと思います。
バラクータはラヴァト卿一族のフレイザータータンを採用しています。
ラヴァト卿一族が文字の記録にはじめて登場するのは1160年に遡ります。
(日本では、源義朝(源頼朝と義経の父)が死去した年です。)
レインコートの裏地のチェック柄に不思議な魅力を感じませんか?
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