レザーグローブの素材とそのグローブに適した装い

目次

はじめに

以前レザーグローブの色について解説しましたが、今回は素材という観点から、そのグローブに適した装いを解説したいと思います。
色については細かく解説しませんので、前回の記事をご確認ください。

また、今回はドレスグローブについての解説になることに留意してください。(ニット素材のグローブや、レザーであってもニットとの切り替えたもの、対照的なステッチが施されたもの等は対象外。)

素材

起毛素材

起毛素材のグローブは、色によってそのグローブに適した装いが変わります。
グレー及び黄色(主に淡黄褐色といった薄く明るい色)は礼装に用いられ、ビジネスフォーマル*まで対応し、カントリー色が強いスーツ(ツイードやコーデュロイ等)を除いて、チェック柄やグレーフランネル等のスーツに合わせることもできます。
薄茶や薄いベージュ等はスーツに、茶のトーンが濃いものはスポーティなスーツやスポーツコートに適しています。
基本的に薄い色ほどドレス度合いが高くなります。
この原則は、靴と反対(基本的に靴は濃い色ほどドレス度合いが高い)であり、ご存じない方には違和感があるかもしれませんが、White Tie のグローブの基本が白ということを考えると腑に落ちるかもしれません。
*ビジネスフォーマル:ネイビー・ミディアムグレー・チャコールグレーで、無地やシャドーストライプ、ピンストライプ、ペンシルストライプ等柄が控えめな梳毛スーツ

モーニングドレスに、グレーの起毛素材のグローブ
(grey mocha gloves)を合わせている。
(1941.4 esquire)
モーニングドレスに黄色のシャモア*グローブを
合わせている紳士(1940.4 esquire)
*シャモア:元々はシャモアをなめした革であったが、
現在は主に羊をなめした革で、起毛したレザー。
シャモアというと、黄色を指すことが多い。
黒と白のヘリンボーンチェビオットのスーツに
グレーモカグローブ(中央の紳士)
(1934.9 esquire)
ガンクラブチェックのスーツに、
黄色のシャモアグローブ(右の紳士)。
(1935.9 esquire)
ネイビーの梳毛スーツに
薄茶のバックスキングローブ(右の紳士)
(1938.10 esquire)
ヘリンボーン柄のチェビオットスーツに、
タンのバックスキングローブを
合わせている(右の紳士)。(1935.3 esquire)
チェックのアルスターコート、
グレーのツイード スーツに、
ブラウンの起毛素材のグローブ(左の紳士)。
(1936.11 esquire)

上記の説明を読み、「グレーや黄色の起毛素材のグローブであっても、外縫いであれば礼装には不適ではないか」と疑問に思った方もいるかもしれません。
内縫いに比べて外縫いはドレス度合いが低いとの考え方もありますが、白、オフホワイト、グレー、黄色の起毛素材を使った外縫いのグローブは、礼装に適したものです。

the traditional stitched mocha* for either daytime or evening dress
デイタイムでもイブニングドレスでも使えるトラディショナルなステッチ入りのモカがあります。
* mocha :グローブに使われるきめ細かいスエード調の素材。モカというと、グレーを指すことが多い。

1956.11 esquire
モーニングドレスに、外縫いのグレーモカグローブをしたボンド(右)。
左の紳士は内縫いのグローブを着用している。
https://www.bondsuits.com/the-morning-suit/

シープスキン Sheepskin

シープスキンは、ヘアシープ、ケープスキン、ラムスキンと様々な呼び名が存在します。
ヘアシープは、アフリカやインド等の比較的温暖な地域を原産地とし、毛用種として改良されず、ほぼ原種のままの肉用種又は乳用種の羊です。
ヘアシープは、毛用種のウールシープと比べ、きめ細かく、薄くて上質な革になめすことができ、グローブに適した素材です。
ケープスキンは、ヘアシープの一つで、その名前は南アフリカの喜望峰 Cape of Good Hope に由来します。
ラムスキンは、生後1年未満のヘアシープを指します。
表面が滑らかで光沢感のあるシープスキンのグローブは、主にスーツに適しています。

内縫いのヘアシープグローブ
https://www.mashimo-onlineshop.com
/SHOP/15-1026.html
外縫いのヘアシープグローブ
https://www.mashimo-onlineshop.com/
SHOP/15-1529.html
ネイビーの梳毛スーツに、
赤色のケープスキングローブ。(1935.9 esquire)
カバートコート、茶色のチェック柄の
チェビオットスーツに、
赤色のケープスキングローブ(右の紳士)
(1938.11 esquire)
ネイビーのオーバーコート、
グレーのストライプ柄の梳毛スーツに、
茶のケープスキン(capeskin:
きめの細かいシープスキン)グローブ。
黒の靴でも茶色のグローブというのが
オーセンティックな着こなし。
(左の紳士)(1941.1 esquire)
ガンクラブチェックのスーツに、
茶色のケープスキングローブ
(1934.10 esquire)

ゴートスキン Goatskin

ゴートスキンは細かいシボが特徴で、シープスキンと見た目が似ています。

生後6か月以内の仔山羊の革をキッドスキンと区別して呼ぶこともあります。
ゴートスキンのグローブは、主に*スーツに適したものですが、今日ではそれほど多く見かけることはありません。
*白のキッドスキンのグローブは、 White Kid Gloves ともいい、礼装に用いられることがありますが、ここでは詳しい説明を割愛しますどんなものにも例外はあるため、本文中では主にとの表現を用いています。

https://georgehorn.ie/products/brown-button-gloves
ツイードトップコート、
グレーの梳毛スーツに、ゴートスキングローブ。
(1939.3 esquire)
ハリスツイードのハウンドトゥース柄のスーツに、
赤色のゴートスキングローブ(右の紳士)。
(1939.11 esquire)

ディアスキン Deerskin

https://www.chesterjefferies.co.uk/our-leathers/

ディアスキンはシープスキンやゴートスキンよりもシボがはっきり見え、比較的表情豊かですが、表面が滑らかな表革と捉えられ、シープスキンやゴートスキンと同様に、主にスーツに適しています。

外縫いのディアスキングローブ
https://merola.jp/products/m-deer-skin-bordeaux-c
内縫いのディアスキングローブ
https://merola.jp/products/m-deer-skin-touch-moro-c
ネイビーにブルーのストライプの梳毛スーツに、
外縫いのディアスキングローブ。(1947.4 esquire)
ツイードのコートに、ディアスキングローブ。
(1953.12 esquire)

ペッカリー、カルピンチョ Hogskin, Buffed Hogskin

Plain Hogskin Unlined Gloves in Tan

https://www.buddshirts.co.uk/
plain-hogskin-unlined-gloves-in-tan.html

ペッカリー Peccary は、主に南米を原産地とする猪豚亜目ペッカリー科の動物です。
ペッカリーをなめした革は、Peccary Pigskin, Peccary Hogskin, Hogskin 等と呼ばれます。

しなやかで柔らかく耐久性に富んでおり、グローブの王様と称されることもあります。
ワシントン条約によって保護されており、高価な素材です。
ペッカリーは起毛素材ではありませんが、シープスキン・ゴートスキン・ディアスキンと比べてマットな質感であり、ペッカリーグローブは主にスポーティなスーツやスポーツコートに適しています。

このペッカリーに似た素材に、カルピンチョ carpincho (カピバラ)があります。
こちらはげっ歯目で、分類学上、ペッカリーとは異なる動物ですが、 Buffed Hogskin とも呼ばれています。
こちらもペッカリーと同様に、主にスポーティなスーツやスポーツコートに適しています。

ペッカリー
3つ横に並んだ毛穴が特徴
https://www.chesterjefferies.co.uk/our-leathers/
カルピンチョ
少し起毛している
https://www.chesterjefferies.co.uk/our-leathers/
カルピンチョグローブ
https://www.buddshirts.co.uk/
buffed-hogskin-cashmere
-lined-gloves-in-tan.html
シェットランドトップコート、
ブラウンのシャークスキンスーツに、
ホグスキングローブ。(1935.10 esquire)
ラグランスリーブのコート、茶色のコーデュロイの
トラウザースに、ホグスキングローブ
(中央の紳士)。(1937.10 esquire)
チェック柄の梳毛スーツに、
黄色のペッカリーグローブ。
足元には黒色の
モンクストラップシューズ。
(1939.10 esquire)
ロバットグリーンのサクソニースーツに、
バフドホグスキングローブ(右の紳士)
(1937.4 esquire)

まとめ

簡潔にまとめると以下のとおりです。

  • 起毛素材は色によってそのグローブに適した装いは変わり、基本的に色が薄いほどドレス度合いが高い。
  • シープ、ゴート、ディアスキンは表面が滑らかな表革であり、主にスーツに適している。
  • ペッカリー、カルピンチョは比較的マットな質感であり、主にスポーティなスーツやスポーツコートに適している。

素材ごとに表にまとめると以下のとおりです。
※色は代表的なものを列挙。

種類BTMorningBFSuitSC
グレー○*1
黄色○*1
茶色○*2
起毛素材

BT:Black Tie
M:Morning Dress
BF(Business Formal): ネイビー・ミディアムグレー・チャコールグレーで、
無地やシャドーストライプ、ピンストライプ、ペンシルストライプ等柄が控えめな梳毛スーツ
Suit:Business Formal に該当しないスーツ全般。
SSは、主に、シアサッカー、サンクロス等の生地や、リネン、コットン等の素材を使った温暖な気候に合ったスポーティーなスーツ。
AWは、主に、フランネル、ツイード、コーデュロイ等の生地を使った寒冷な気候に合ったカントリーなスーツ。
SC(Sport Coat):上下が共地でない、いわゆるジャケパンスタイル

*1 カントリー色が強いスーツ(ツイードやコーデュロイ等)を除く
*2 薄茶や薄ベージュ等の薄い色
種類BTMorningBFSuitSC
赤色
茶色
シープスキン、ゴートスキン、ディアスキン
種類BTMorningBFSuitSC
黄色
茶色
ペッカリー、カルピンチョ

取り挙げたイラストレーションを見ていただいたとおり、古典的な視点でいえば、黒と見紛うほどの濃い色のグローブが着用されることは多くありません。
淡色のグローブは肌の色に近く、装いに取り入れやすくおすすめです。

今回は以上になります。
コメント、リクエストがあればお気軽にどうぞ。
ではまた次の機会に。

P.S.
お問い合わせフォームやコメント欄からいくつかご質問をいただいており、ありがとうございます。
返信について今しばらくお待ちください。

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