はじめに
今回はトラディショナルなニットウェアであるフェアアイルニットを取り挙げたいと思います。
フェア島含むシェットランド諸島とフェアアイルニットの歴史
フェア島
フェアアイルとは、 Fair Isle と表記し、スコットランドのフェア島を指します。
フェア島は、シェットランド諸島 Shetland Islands を構成する島の一つで、スコットランドの北東海岸から北東に約125km離れたところに位置しています。
面積は8㎢程度と非常に小さい島です。(東京23区のうち最も面積の小さい台東区で約10㎢。)

シェットランド諸島の帰属
フェア島含むシェットランド諸島は、スコットランド領となる前、デンマーク及びノルウェーの国王であったクリスチャン1世の支配下にありました。
1468年、クリスチャン1世の子女であるマルグレーテ王女がスコットランド王ジェームズ3世と婚約し、持参金をスコットランド側に支払うことになりました。
翌年、シェットランド諸島は、持参金を現金で支払うまでの間、持参金の代わりとして提供され、結局、持参金の現金による支払は行われず、1472年に正式にスコットランドに編入されました。

https://en.wikipedia.org/wiki/Christian_I_of_Denmark
シェットランド諸島とニット
シェットランド諸島の住人は、ノルウェー統治時代にワドマル wadmal と呼ばれる織物を税として納め、18世紀初頭まで、オランダやドイツの商人に対して主に靴下を輸出し、生地の製造や加工の技術をもっていました。
19世紀には、イギリス本土向けのレースショールの生産にシフトしますが、やがて機械編みのレースショールに押されるようになりました。

https://www.vam.ac.uk/articles/
british-knitting-traditions
そこでその代わりとして主力輸出品となったのがフェアアイルニットでした。
元々フェア島の特産品であったフェアアイルニットは、19世紀後半にはシェットランド諸島全体で生産されるようになりました。
20世紀前半になるとフェアアイルニットの産業に衰退の兆しが見えはじめました。
1921年、自国の産業であるフェアアイルニットを再び盛り上げるため、プリンス・オブ・ウェールズ(のちのウィンザー公)はロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフ・クラブでフェアアイルセーターを着用しました。
20世紀を代表するファッションリーダーたるプリンス・オブ・ウェールズが着用したフェアアイルニットは世界的に知られるようになり、オーセンティックなスポーツウェア、ニットウェアとしての地位を確立しました。

プリンス・オブ・ウェールズ
https://en.wikipedia.org/wiki/Fair_Isle_(technique)
記者はいまサンモリッツで記事を書いているのだが、ここへ来る前にミュレン、ダボス、コーを歴訪してきた。ここサンモリッツでは確かに少数派である英国人だけでなく、世界中、特に米国からくる多くの観光客も、2~3年前だったら感嘆の叫びをあげたに違いない模様や色彩を平気で着ていると述べるのにちゅうちょはしない。疑いなく、こうした傾向はフェア島製品の流行からはじまったことである。ここの80パーセントの男性はフェア島産のジャージーを着ているし、その中でも最も人気のあるのは地色が黄かっ色、茶、グレーで柄の色が新しい青や白のものである。ジャージーに関する限りスタイルは1種類だけで、頭からかぶる型のものである」
O. E. Schoeffler, William Gale 著、高山能一訳(1981)『エスカイア版20世紀メンズ・ファッション百科事典〈日本語版〉』スタイル社、p.354
~中略~
(『メンズウエア』誌1924年2月6日号)
セーター/スリップオーバー等の呼称
上半身を覆うように着用するニット製品をsweater 、主に英国ではjumper といいます。
フロントボタンのあるセーターをcardigan 、フロントボタンのない頭からかぶって着用するセーターをpullover と呼びます。
つまり、カーディガンもプルオーバーもセーターの一種ですが、一般的にセーター=プルオーバーとの認識されることが多いです。
袖のないものを区別するときにはこれらにsleeveless とつけて、sleeveless sweater, sleeveless jumper, sleeveless cardigan, sleeveless pullover あるいはsweater vest と呼びます。
slipoverはフロントボタンのない、かつ袖のないセーターを指します。
フェアアイルニットの着こなし
フェアアイルニットはゴルフ場で着用されるようなスポーティなアイテムであり、ツイードやコーデュロイといったスポーティなスーツやスポーツコートと相性がよいです。
それらの下に着用する場合は、フェアアイルニットの厚みを考慮すると、スリップオーバーのほうが快適に着用できます。
このとき、オッドベストのように暗すぎないトーンのものを選ぶとうまく合わせることができます。
ネクタイはマットな質感のウールタイ、アイリッシュポプリンタイ、マダーシルクタイ等が適しています。
スーツのウエストコートの代わりにスリップオーバーを着用するといったややドレスに装う場合、フーラードやレップも選択肢になります。
シャツはオックスフォードシャツ、フランネルシャツ、タッターソール柄のシャツ等スポーティなものが適しています。

オックスフォードシャツ、ストライプ柄のシルクタイ、
アーガイル柄のウールのホーズ、
黒のウィングチップシューズに、
フェアアイルスリップオーバー
(1935.2 esquire)

シェットランドジャケット、
タッターソール柄のフランネルシャツ、
カシミアのネクタイ、
コーデュロイトラウザース、
チャッカブーツに、
フェアアイルスリップオーバー
(1939.4 esquire)

ウィップコードスーツ、
タンカラーの
オックスフォードシャツ、
グリーンの
ヴェルヴェッドタイ、
グリーンのウールホーズ、
チャッカブーツに、
フェアアイルスリップオーバー
(1939 Apparel Arts)
おわりに
今回は、フェアアイルニットの歴史や着こなしを解説しました。
フェアアイルニットに合わせる主な推奨アイテムは次のとおりです。
- ジャケット:ツイードやコーデュロイ等のスポーティなスーツやスポーツコート
- シャツ:オックスフォードシャツ、フランネルシャツ、タッターソール柄のシャツ、等
- ネクタイ:ウールタイ、アイリッシュポプリンタイ、マダーシルクタイ、等
フェアアイルの柄が派手に感じるという人は、柄の面積がセーターと比べて少ないスリップオーバーや、ブラウンやグリーンといったアースカラーの落ち着いたトーンのものを選ぶと着やすいと思います。
着用してみると、ニット単体で見るよりも意外と馴染むことに気づかれると思います。
今回は、以上になります。
取り挙げてほしい題材やご質問、ご感想等お気軽にコメントください。
ではまた次の機会に。
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