トラウザースを履く正しい位置

目次

はじめに

以前、解説をリクエストいただいておりました、トラウザースを履く正しい位置について解説したいと思います。

吊りズボンとブレイシスを使わなくてもよいトラウザースは別物

常にブレイシスで吊って履くトラウザース(以下、吊りズボンという)と、ブレイシスを使わなくてもよいトラウザース(以下、ミッドライズトラウザースという)にはそれぞれに応じたトラウザースを履く正しい位置があります。
例えば、ブレイシスを使わずに吊りズボンを着用すれば、設計上の着用位置よりも下部で着用することとなり、臀部の下に皺が寄ったり、裾に生地が溜まったりしてしまいます。
かのウィンザー公は、ベルトを使ってトラウザースを履くことを好み、吊りズボンを標準仕様とする伝統的なテーラーとは別のテーラーで、トラウザースだけを仕立てていました。

From 1919 until 1959 — a space of forty years — my principal tailor in London was Scholte. It is a firm which, alas, no longer exists. Mr. Scholte died soon after the Second World War, during which his premises were badly bombed, and his son, who inherited the business, gave it up on the expiry of the lease last year.
~中略~
I never had a pair of trousers made by Scholte. I disliked his cut of them; they were made, as English trousers usually are, to be worn with braces high above the waist. So preferring as I did to wear a belt rather than braces with trousers, in the American style, I invariably had them made by another tailor.
During the war, when I was Governor of the Bahamas, my wardrobe began to wear out, and on a visit to New York I decided to replenish it. I went to a tailor named Harris who had served his apprenticeship in London. I gave him a pair of my old London trousers and he copied them admirably. Since then, I have had my trousers made in New York and my coats in London, an international compromise, which the Duchess aptly describes as ‘pants across the Sea’.
I am, I gather in good company, since Brummell himself had his coat made by one tailor, his waistcoat by another, and his breeches by a third. He had one advantage over me, however. He did not have to go all the way across the Atlantic for the breeches.
 1919年から1959年までの40年間、ロンドンでの私の主なテーラーはショルテだった。残念ながらこの会社はもう存在しない。ショルテ氏は第二次世界大戦の直後に亡くなり、その間に彼の建物はひどい爆撃を受け、事業を承継した彼の息子は、昨年のリース期間満了に伴い、この会社を手放した。
~中略~
 私はショルテのトラウザースを履いたことがない。英国のトラウザースが通常そうであるように、ウエストの上の高い位置でブレイシスをつけるようにつくられており、私はそれが気に入らなかったからだ。トラウザースにブレイシスではなく、ベルトをつけるアメリカン・スタイルが好みであり、いつも別の仕立て屋でつくってもらっていた。
 戦時中、私がバハマ総督だった頃、ワードローブが擦り切れ始めたため、ニューヨークを訪れた際に補充することにした。ロンドンで見習いをしていたハリスという仕立て屋のところに行った。私が昔ロンドンで仕立てたトラウザースを彼に手渡すと、見事にコピーしてくれた。それ以来、私はトラウザースをニューヨークで、コート(※いわゆるジャケット)をロンドンでつくってもらっている。国をまたいだいいとこどりというもので、公爵夫人は「海を越えたパンツ」と表現している。
上下を別々のテーラーで仕立てているのは私だけではなく、例えばボー・ブランメルはコートをあるテーラーに、ウエストコートを別のテーラーに、そしてブリーチズを3人目のテーラーにつくってもらっていた。しかし、彼には私より有利な点がひとつあった。ブリーチズのためにはるばる大西洋を渡る必要がなかったことだ。

Duke of Windsor, A Family Album, London: Cassell, 1960, pp.98-103

2つの正しい位置

写真:https://www.gunze.jp/store/g/vBW2995P/

Aはウエストラインであり、肋骨の下にあるくぼみ、Bは腸骨稜付近のくぼみ、Cは上前腸骨棘じょうぜんちょうこつきょく(出っ張っている骨)を指します。

吊りズボンの場合、ウエストバンド(いわゆるウエスマン)の上部が肋骨の下部に少し触れるように着用するのが古典的な正しい着方になります。(上記写真中のXは吊りズボンのウエストバンドの位置。)

古典的な正しい位置でトラウザースを履く
英国王エドワード7世
https://npgshop.org.uk/products/
king-edward-vii-npg-x134644-card

The trousers are full cut and, to give the right effect, ought to hit you just a bit below your lowest rib.
(正装におけるブレイシスで吊って履く)トラウザースはフルカットで、正しい効果を出すには、一番下の肋骨の少し下に当たるようにする。

O.E. Schoeffler, William Gale, Esquire’s encyclopedia of 20th century men’s fashions, New York: McGraw-Hill, 1973, p.172

一方、人為的にトラウザースを引っ張り上げるブレイシスを用いない場合、重力に従って下がっていくトラウザースが無理なく安定的に留まる位置がトラウザースを履く正しい位置になります。
無理なく安定的にというのは、ベルトやサイドアジャスターはウエストバンドを体に食い込ませて好きな場所にトラウザースを留める道具ではなく、体を締め付けて不快にならない適切なウエストバンドの周径を定めるものであり、結果としてウエストバンドがどこかに引っ掛かって留まるということです。
このどこかというのは、一般的に*1上前腸骨棘(上記写真中のC)であり、基本的にミッドライズトラウザースは上前腸骨棘に引っ掛かって留まる位置で着用するのが正しい着方といえます。(上記写真中のYはその際のミッドライズトラウザースのウエストバンドの位置。)
*1 ヒップやウエストバンド等、上前腸骨棘以外の体に接するところもトラウザースを留めることに寄与していることや、下腹部の脂肪の蓄積の程度といった体型によっては、ウエストバンドの位置が上記写真中のYとならないこともあります。
*2 一部のWEBサイトや書籍等ではへその位置を使って説明することがありますが、へそと骨の位置関係には個人差があり、骨の位置で説明することが適切と考えます。

上前腸骨棘に引っ掛かる位置で
トラウザースを着用するウィンザー公。
写真:https://i.dailymail.co.uk/1s/
2022/01/14/15/40243640-10402993-
After_the_war_the_Duke_and_
Duchess_returned_to_their_home_
in_Fra-a-15_1642175880114.jpg
https://i.pinimg.com/736x/ca/ad/a0/
caada038dcebb65fd5b3316ef39f11d2.jpg

股上との関係

注文服の場合、常にブレイシスで吊って着用するか否かを決め、着用者の上前腸骨棘の位置を考慮し、股上を決定します。
一方、既製服の場合、本人の着方(常にブレイシスで吊って着用するか否か)と体に股上が合わないことがあります。
例えば、ベルトを着用して、トラウザースの左右のポケットに親指を掛け、下に向かって軽く力を加えて、ウエストバンドが上前腸骨棘に引っ掛かって留まる位置に合わせます。
この状態で鏡を使って後ろ姿を見て、臀部の下に生地が余っているような皺がある場合、股上が体に合っていない可能性があります。

おわりに

今回は、トラウザースを履く正しい位置について解説しました。
トラウザースには、次の2種類が存在し、それぞれにトラウザースを履く正しい位置があります。
➀常にブレイシスで吊って履くトラウザース
➁ブレイシスを使わなくてもよいトラウザース

前者はウエストバンドの上部が肋骨の下部に少し触れるように着用するのが古典的な正しい着方であり、後者は一般的にウエストバンドの下部が上前腸骨棘に引っ掛かる位置で着用するのが正しい着方です。

今回は、以上になります。
ご感想、ご質問、リクエスト等お気軽にコメントください。
ではまた次の機会に。

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コメント

コメント一覧 (3件)

  • 装ひ研究所
    管理人様

    いつもお世話になっております。
    この度はリクエストご回答頂き、誠にありがとうございました。
    丁度スーツの仕立てを依頼しようと思っていたところで大変参考になりました。
    改めてこの度はどうもありがとうございました。

    • kakao.neko様

      いつもフォローありがとうございます。
      お役に立てたのであれば幸いです。
      素敵なスーツに仕上がるとよいですね。
      またお気軽にお問い合わせください。

      装ひ研究所 管理人

      • 装ひ研究所
        管理人様

        いつもお世話になっております。
        先日はどうもありがとうございました。
        お陰様で今回、伝統的な位置まで股上を上げ三つ揃いを仕立てる事になりました。

        その後トラウザーズの股下や裾幅について話題になりましたが、この点について伝統的な長さや比率などはございますか?
        トラウザーズ自体のシルエットやブレイクの有無、個人の体型好みにより股下や裾幅はある程度変わる事は存じております。
        それ以外に……例えばジャケットや靴との相性等考慮した方が良い伝統的な要素等はありますでしょうか?

        お手数をおかけしますが、良ければご見解ご教授頂けますと幸いです。
        ご検討宜しくお願い致します。

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