はじめに
「ドレスシャツは元々下着であった」ということは、当サイトの読者の皆様の多くがご存じのことと思います。
今回は、それに関連して、スーツ・ジャケットを購入する際に確認してほしいことの一つをご紹介したいと思います。
オープン・クォーターとクローズド・クォーター
ジャケットにおけるクォーター Quarters とは、留めることを想定した最下部のフロントボタンから裾にかけて描かれる緩やかな曲線を指します。
この曲線が裾にかけて斜め後ろに比較的大きく曲がり、前裾が開いて見えるものをオープン・クォーター Open Quarters 、この曲線が裾にかけて比較的まっすぐに落ち、前裾が閉じて見えるものをクローズド・クォーター Closed Quarters といいます。
日本においては、フロントカットという用語がこれに相当し、大丸が前者、小丸が後者となります。

Henry Poole のスーツ
https://alphacityguides.com/london/articles
/inside-savile-row

Anderson & Sheppard のスーツ
https://style.president.jp/fashion/2018/1013_000462.php
留意点
クォーターは、着用者の体型や好みに応じて選択するものですが、特にオープン・クォーターを着用する際に確認すべき点があります。
それは、「フロントボタンを留めて着た際に、ジャケットとトラウザースの間からシャツが露出しないか」ということです。
前裾の開きが大きすぎることやフロントボタンの位置が高いこと、合わせるトラウザースの股上が浅いこと等によって、オープン・クォーターのジャケットは、ジャケットとトラウザースの間からシャツが覗きやすいです。
(腕を組んだり、吊革につかまったりした際に、シャツが覗くのは構いません。)
ドレスシャツは元々下着であり、その上に着用するウエストコートやジャケットにはそれを隠す役割があります。
したがって、Vゾーンと袖口以外からシャツが露出しないことが望ましいです。

着用したハリー王子。
フロントボタンを留め、自然に手を下した状態で、
ジャケットとトラウザースの間から
シャツが覗いてしまっている。
前裾の開きが大きいジャケットに対して、
浅い股上のトラウザースを
合わせていることに起因しているように見える。
クォーターに関係ないが、袖丈も間違っている。
https://www.express.co.uk/news/royal/1950918/
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The dress shirt functioned exactly like the modern T-shirt by keeping sweat away from the outer garments while protecting the body from the coarse outerwear materials. However, propriety demanded that only its collar and cuff be visible, hence the term “showing linen” meant that white linen at the neck and hand was a sign of gentility. As recently as the late 1940s, it was as shocking for a man to expose his dress shirt in polite society as it would have been for a woman to walk into a restaurant wearing nothing over her brassiere.
Alan Flusser, Dressing the Man, New York: Harper Collins Publishers, 2002, p.122
ドレスシャツは、アウターに汗が直接付くことやアウターの粗い素材が体に直接触れることを防ぐという、まさに現代のTシャツのような機能を果たしていた。しかし、襟と袖口のみ見えるようにする(=襟と袖口以外は見せないようにする)ことが礼儀であり、「ショーウィング・リネン(=リネンを見せる)」と言って、首と手に現れる白いリネンは紳士らしさの証とされていた。つい最近の1940年代後半まで、教養のある人々の間では、男性がドレスシャツを露出することは、女性がブラジャーの上に何も身に着けずにレストランに入るのと同じくらい衝撃的なことだった。
おわりに
今回はスーツやジャケットを購入する際に確認してほしいことの一つである、「フロントボタンを留めて着た際に、ジャケットとトラウザースの間からシャツが露出しないか」という点を紹介しました。
このようなシャツの露出は、オープン・クォーターのジャケットに起こりやすいです。
テーラーのハウススタイルによっても異なりますが、概ねイタリアのサルトでは、オープン・クォーターが採用されており、その影響から、日本の既製服はオープン・クォーターのジャケットが多いように見受けられます。
特に既製服を購入される際にはよく確認することをおすすめします。
今回は、以上になります。
ご感想、ご質問、リクエスト等お気軽にコメントください。
ではまた次の機会に。
コメント
コメント一覧 (4件)
管理人様
いつもブログを楽しく拝見しています。このブログの内容に関連して1つ質問があります。スーツではなくジャケット&パンツスタイルにおいて、オープンクォーターのジャケットをフロントボタン留めで着用する場合に、クォーターラインの違いからオッドウエストコートの裾部分が少し覗いてしまうのは原則として避けた方がいいのでしょうか。あるいは、下着としてのシャツが見えていなければ、個人の好みの範疇で自由にしてよいものでしょうか。このブログの写真にもあるように、スリーピーススーツの場合には、ウエストコートがジャケットのクオーターラインからのぞいていない方が恰好良く思えるのですが、オッドウエストコートの場合はどうなのかなと疑問に思いました。ご意見を共有していただけますと幸いです。
ksks様
いつもフォローありがとうございます。
以下いただいたご質問の回答になります。
歴史を振り返ると、18世紀、コート(いわゆるジャケット)・ウエストコート・ブリーチズの三つ揃いが一般的であった時代、宮廷服や乗馬服等のコートは身頃が裾に向かって大きく湾曲し、コートの下部からウエストコートがよく見えるように着用されていました。
特に宮廷服のウエストコートは、贅沢な刺繍をあしらった華やかなものであり、ウエストコートを積極的に見せていたといえます。
フランス革命(18世紀末)、産業革命(18世紀半ば19世紀)を経て、シルクを使った華やかな装いから、羊毛を使った地味な装いが中心となり、その過程で絢爛たるウエストコートは姿を消しましたが、19世紀においてもモーニングコートや上一つ掛けのコート(スーツの上着含む)等、留めたボタンの下からウエストコートが覗く形状のコートは引き続き着用されました。
現在もモーニングコートは昼間の正礼装として着用され、そのボタンを留めてもその下からウエストコートが覗くものです。
このように、コートの前裾の形状によってはコートとトラウザースの間からウエストコートが覗くのは自然なことであり、それを避ける習慣があったという事実はありません。
したがって、コートとトラウザースの間からウエストコート(スーツのウエストコート・オッドウエストコート)の裾が覗くのは問題ありません。
装ひ研究所 管理人
管理人様
ご回答ありがとうございました。歴史的背景や礼装の観点からの回答で、大変興味深く勉強になる内容でした。今後もブログ楽しみにしています。
ksks様
ご返信ありがとうございます。
またお気軽にお問い合わせください。
装ひ研究所 管理人