はじめに
今回は、トラディショナルなオーバーコートの一つである、ポロコートについて取り挙げたいと思います。
ポロコートとは
歴史
ポロコートは、その名のとおり、ポロ競技に由来するオーバーコートであり、英国においてポロプレイヤーがチャッカーの合間に着用していたオーバーコートに起源を求めることができます。
英国発祥ではありますが、米国で独自の発展を遂げたポロコートは、アイビーリーガーを中心に人気を博し、1920年代後半までにオーバーコートの定番品としての地位を確立しました。
A wonderful new coat which became a classic was the polo coat of natural color camel’s hair which originated in the British “wait coat” thrown over the shoulders between period of play.
Ruth Turner Wilcox, Five Centuries of American Costume, New York: Charles Scribner’s Sons, 1963, pp.156,157
定番となった素晴らしい新しいコートは、ナチュラルカラーのラクダの毛を使ったポロコートで、これはプレーの合間に肩に羽織る英国の「ウェイトコート」に由来する。
It was introduced to the United States by members of the English polo team who came to play in the international polo matches on Long Island and tossed camel’s hair coats around their shoulders while they relaxed between chukkers. Undergraduates at Princeton and Yale began wearing the camel’s hair polo coat in 1926, and the style promptly spread to leading Eastern and Midwestern university campuses. ~中略~ By the late twenties a polo coat, a fly-front chesterfield with a velvet collar, and a reversible coat (Harris Tweed on one side and tan processed cotton on the other) were three coats the clothes-conscious Ivy Leaguer was almost certain to have hanging in his closet.
O.E. Schoeffler, William Gale, Esquire’s encyclopedia of 20th century men’s fashions, New York: McGraw-Hill, 1973, p.104
ロングアイランドで開催された国際ポロ競技に参加した英国ポロチームのメンバーが、チャッカーの合間にラクダの毛のコートを肩に掛けてくつろいだことから、このコートが米国に紹介された。プリンストン大学とイェール大学の学部生がラクダの毛のポロコートを着始めたのは1926年のことで、このスタイルは瞬く間に東部や中西部の主要な大学のキャンパスに広まった。 ~中略~ 1920年代後半までには、ポロコートやベルベットの襟がついたフライフロントのチェスターフィールド、リバーシブルのコート(片面がハリスツイード、もう片面がタンカラーの加工されたコットン)の3つのオーバーコートは、洋服にうるさいアイビーリーガーの必携品となっていた。
More specifically, it was originally intended to warm English polo players between chukkas, hence its roomy, robe like fit.
Cad and The Dandy (ロンドン等に店を構えるテーラー)
As it migrated from English polo fields to American college campuses, it took on more classical overcoat features including turnback cuffs, a double-breasted buttoning stance, peaked lapels and a belted back.
より具体的には、もともとはチャッカーの合間に英国のポロプレーヤーを暖めるためのもので、そのためゆとりのあるローブのような着心地だった。
イギリスのポロ競技場からアメリカの大学のキャンパスへと移行するにつれ、ターンバックカフス、ダブルブレストのボタン留め、ピークドラペル、背中のベルト等、よりクラシカルなオーバーコートの特徴を備えるようになった。
https://cadandthedandy.co.uk/pages/overcoats?srsltid=AfmBOopfr25phJ00IC9tTlaQZSl5xF7-f4gexEUX0yucypMiIPwfRIFV
ディテール
ポロコートは1920~30年代に隆盛を極めたオーバーコートであり、その間に様々なスタイルが生まれました。
一つの決まった型があるわけではないという意味では、ある程度の幅をもって捉えるべきものであり、その幅は次のような内容になります。
項目 | 内容 |
---|---|
襟 | ダブルブレステッドでピークドラペル(角度の緩いピークドラペル含む)が一般的。 |
胸ポケット | 胸ポケットがないことも珍しくありません。 |
フロントボタン | ダブルブレステッド6ボタン3掛け、6ボタン2掛け等。 古くは白蝶貝が使用されることがありました。 |
ベルト | ベルトあるいはハーフベルト付き。 |
スリーブ | セットインスリーブが一般的。 ラグランスリーブが採用されることもあります。 カフ(袖口の折り返し)がつくことも珍しくありません。 |
ポケット | フラップ付きパッチポケット(フレームドパッチポケットを含む)が一般的。 |
ベント | センターベントが一般的。 インバーテッドプリーツ(トレンチコートやローデンコート等に採用されるベント)が採用されることもあります。 |
素材 | キャメルヘアあるいはカシミア、柔らかいウール。 色はベージュ系(キャメルカラー、クリーム色等)が代表的。 |
シルエット | ゆとりのあるサイズ感。経験則では、それに合わせて着丈を長くすると見栄えがします。 (膝がちょうど隠れる丈よりも10cm弱~15cm強長い着丈) |
POLO COAT: A double- or single-breasted overcoat of camel’s hair or soft fleece with set-in or raglan sleeves, patch pockets with flaps, sleeve cuffs, and a half- or all-aroud belt. This American classic’s ancestry can be traced to Britain’s Edwardian polo fields, when sporting society gentleman had their tailors come up with something to throw over their shoulders, a “wait coat” between “chukkas” and sets of tennis. Brooks Brothers is largely credited with introducing the polo coat for wear away from the playing fields. (See page 3.)
Alan Flusser, Dressing the Man, New York: Harper Collins Publishers, 2002, p.296
ポロコート:ダブル又はシングルブレスト、キャメルヘアあるいは柔らかい羊毛、セットインスリーブあるいはラグランスリーブ、フラップ付きパッチポケット、袖のカフ、背のハーフベルトあるいは一周するベルトのあるオーバーコート。このアメリカン・クラシックの祖先は、英国のエドワード朝ポロ競技場に遡ることができ、スポーツを楽しむ社交界の紳士たちは「チャッカー」やテニスのセットの間に着る「ウェイトコート」として、肩から羽織るものを仕立て屋に考案させた。ブルックス・ブラザーズは、競技場以外でも着用できるコートとしてポロコートを広めたと言われている。
Although the six-button double-breasted model with a half belt was the classic polo coat, variations were seen at the polo matches, too, among them a single-breasted box coat, a four-button model with raglan shoulders and an all-around belt, and a wraparound style with no buttons and a tied belt.
O.E. Schoeffler, William Gale, Esquire’s encyclopedia of 20th century men’s fashions, New York: McGraw-Hill, 1973, p.104
ポロコートは6つボタンのダブルブレストにハーフベルトのモデルが定番だが、シングルブレストのボックスコート、ベルト付きのラグランショルダーの4つボタンモデル、ボタンがなくベルトを結ぶラップアラウンドスタイル等、ポロ競技で複数のバリエーションが見られた。
Brooks Brothers modeled its polo coat on the English version of the overcoat worn off the field by players of that sport. The cream-colored overcoat with its mother-of-pearl buttons was the first version offered by the retailer. Brooks Brothers would later add gray and camel’s hair to the line.
Brooks Brothers was founded in 1818 in New York City. Offering both ready-made and custom men’s clothing, the retailer expanded its offerings to include women’s wear in the 1940s.
ブルックス・ブラザーズがポロコートのモデルとしたのは、ポロプレイヤーがフィールド外で着用する英国版のオーバーコート。白蝶貝のボタンをあしらったクリーム色のオーバーコートは、ブルックス ブラザーズが最初に提案したものだった。ブルックス・ブラザーズは後に、グレーとラクダの毛を使ったモデルをラインナップに加えた。
ブルックス・ブラザーズは1818年にニューヨークで創業。既製服およびオーダーメイドの紳士服を提供し、1940年代には婦人服も扱うようになった。https://www.metmuseum.org/art/collection/search/159525
着こなし例
ポロコートは、スポーツにおける装いという出自から、スポーティなものであり、フランネルやツイード等のスポーティなスーツ・スポーツコートとの相性がよいです。
ただし、例外的に、暖かい地域における涼しい夏の夜にディナージャケットのオーバーコートとして着用されることがありました。
白のディナージャケットと同じ位置づけであり、限定的な装いであることに留意する必要があります。
おわりに
今回は、ポロコートの歴史、ディテール、着こなしについて解説しました。
ポロコートは、フランネルやツイード等のスポーティなスーツ・スポーツコートと相性がよいです。
ネクタイを緩めたようなリラックス感がありながら、品位を損なわないのはポロコートならではの魅力といえます。
ポロコートの上品さは、ツイードやコーデュロイのもつ土臭さを程よく中和してくれるため、装いを品よくまとめたいときに重宝します。
今回は、以上になります。
ご感想、ご質問、リクエスト等お気軽にコメントください。
ではまた次の機会に。
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