はじめに

近年、ベルナールザンス BERNARD ZINS というブランドを雑誌やお店でよく目にするようになりました。
ベルナールザンスはイタリアでもイギリスでもない、フランスのブランドです。
メンズドレススタイルは、イタリアとイギリスの2軸で比較されることが多く、イタリアは”柔”、イギリスは”硬”というイメージを思い浮かべることができます。
時々、これらにアイビーといったアメリカが加わります。
このように、フランスのスタイルはあまり語られることがありません。
今回はフランスを代表するタイユール Tailleur (テーラーの意)がつくるスーツの特徴を取り挙げて、フレンチスタイルについて理解を深めたいと思います。
まずは、フランスを代表するタイユールを3つご紹介します。
❶ Cifonelli
➋ Camps de Luca
❸ Smalto
❶チフォネリ Cifonelli

チフォネリは日本橋三越本店にて取扱いがあり、最も馴染みのあるフランスのタイユールではないでしょうか。
1880年にジュゼッペ・チフォネリ Giuseppe Cifonelli がローマに開いたアトリエにルーツがあるものの、1926年に息子のアルトゥーロ・チフォネリ Arturo Cifonelli がアトリエをパリに移転したことから、フランスのタイユールとして広く認知されています。
1992年から2007年までエルメスのオーダーメイドを請け負っていました。
➋カンプス・ドゥ・ルカ Camps de Luca

- 1948年、イタリア中部にて修業を積んだ マリオ・ドゥ・ルカ Mario de Luca がパリにて Maison de Luca を創業。
- 1969年、Maison de Luca にジョゼフ・カンプス Joseph Campsが合流する形で、 Camps de Luca を設立。
ジョゼフ・カンプスは、フランチェスコ・スマルト Francesco Smalto 、アンリ・アーバン Henri Urban 、クロード・ルソー Claude Rousseau 、ガブリエル・ゴンザレス Gabriel Gonzalez 等著名なタイユールを育成した伝説的タイユールです。
❸スマルト Smalto

1962年、フランチェスコ・スマルトがパリにて Smalto を創業。
ハッサン2世モロッコ国王といった世界のVIPを顧客に抱え、007等映画への衣装提供をしてきました。

https://www.lefigaro.fr/mode-homme/smalto-affaires-d-etat-en-francafrique-20210729

https://www.smalto.com/pages/smalto-et-le-7e-art
フランスを代表するタイユールに見るディテール
フランスを代表するタイユールに見られる次のようなディテールを一つ一つご紹介します。
①コンケーブショルダー
②フィッシュマウスラペル
③ティアドロップポケット
④折り目が付いたベント
⑤フレアなシングル裾
①コンケーブショルダー concave shoulder
コンケーブショルダーとは、首のつけ根と肩先の中間から肩先にかけて反り上がるディテールで、肩の中央がくぼむような湾曲したラインが特徴的です。
英国スタイルに見られるロープショルダーと混同しやすいですが、ロープショルダーは首のつけ根から肩先にかけて肩に沿った自然なラインを描き、肩先だけが盛り上がっており、くぼみがありません。

https://www.permanentstyle.com/2011/09
/cifonelli-parisian-powerhouse.html

https://www.huntsmansavilerow.com/bespoke-old/signature-cut/

②フィッシュマウスラペル fish mouse lapel
フィッシュマウスラペルとは、ラペルが水平に近く、ノッチドラペルとピークドラペルの中間の角度をしたラペルのことです。

https://www.instagram.com/p/67uAdDuhFx/

https://barimavox.wordpress.com/2011/06/27/smalto/

https://ameblo.jp/harasuit/entry-12498041242.html

③ティアドロップポケット teardrop pocket
ティアドロップポケットは、しずくの形をしたジャケットの内ポケットのことです。
カンプスとスマルトが師弟関係にあったからか、Camps de Luca 、 Smalto のいずれでも採用されているディテールです。

http://daisukeyamashita.blog28.fc2.com/blog-entry-664.html

https://www.permanentstyle.com/2012/11/
smalto-bespoke-tailor-paris.html
④折り目が付いたベント creased vent
下の写真のような位置にクリースを入れるというのは他ではまず見かけることはありません。
ちなみに、フランスで修業した五十嵐九十九氏の監修したスーツにもこのクリースが入っているのを見たことがあります。

https://therake.com/stories/style/
the-noble-ninefold-path-to-suit-enlightenment-part-iv/

https://www.permanentstyle.com/2019/08/
cifonelli-navy-suit-style-breakdown.html
⑤フレアなシングル裾
下の写真のようなディテールもまず見かけることはありません。
冒頭で挙げたザンスのパンツはフレアではありませんが、スマートなシングル裾のイメージですね。

https://dandyportraits.blogspot.com/search/label/Cifonelli

https://www.smalto.com/pages/heritage

おわりに
フランスを代表するタイユールがつくるスーツに見られる特徴的なディテールを5つ取り挙げました。
これらのディテールは英国、イタリア、アメリカいずれのスーツにもなく、フランスのスーツに見られる特徴と言うことができます。
このうち、コンケーブショルダーは撫で肩を補うことができることから、私が長年誂え服に採用しているディテールです。
一般的なディテールでないことから、仕立てることができるテーラーが限られ、仕立てることができても、基本的にフルオーダーとなり、高額になってしまうことが難点です。
(前述の、肩先のみ盛り上がっているロープショルダーをコンケーブショルダーとして販売するテーラーも一部いることに注意してください。)
一味違ったスーツを誂えたいときにフレンチな意匠を取り入れてはいかがでしょうか。
今回は、以上になります。
ご感想、ご質問、リクエスト等お気軽にコメントください。
ではまた次の機会に。
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