靴の内振れ(内振り)

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はじめに

高級紳士靴に詳しい方は内振れ(内振り)という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
内振りが効いていてよい靴だというポジティブな文脈で語られることが多いです。
一方、スニーカーの販売員に話を伺うと、内振れが少ないストレートラストが足に優しいと説明を受けることもあります。
今回は、内振れについて取り挙げたいと思います。

内振れ(内振り)とは

Edward Green 82last と J.M. WESTON #180 の比較。
前者は内振れが顕著。
画像:https://item.rakuten.co.jp/
agio-aj/240chelsea0820001/
https://item.rakuten.co.jp/importbrandgrace/
56411411821801fc0001/

内振れ(内振り)とは、靴底の前足部が内反する、すなわち靴の中心線よりも内側に靴の先端がある状態を指します。
上の写真のように、靴底から見ると内振れの程度が分かりやすいです。

内振れの強い靴は足の障害の原因になる

現在でこそ一般的である、左右非対称の靴は19世紀以降に一般的になったといわれており、靴が紀元前から存在することを考えると比較的新しいものです。
左右非対称となる過程で誕生した内振れですが、内振れの強い靴は足の形態学的特性を反映しておらず、足の障害の原因になるという指摘もあります。

 図2-15は足と靴の縦軸の関係であるが,左が足の中央軸であり,中央は直線軸の靴型,または靴における中央軸である。右は曲線軸の靴型における中央軸(点線の部分)で,中央に曲がることを強制された直線軸の足である。その結果,歩き方や履き心地が不自然で,足が彎曲してくるのである。
 図2-16は,一般的な大人の”曲がった靴底”である。これを内振り(Inflare)の強い靴型と称し,とかくファッション性を優先させた靴にこのようなものが多い。世界中で作られている靴の多くは,1世紀以上もこの歪んだ靴型の原理に基づいて作られてきたのである。それは靴製造業者が人の足の形態学的特性を認識しなかったために,その欠点に気付かず,ましてより機能的な靴を開発しようとする意欲に欠けていたからである。これらの靴型は,足を過度に擦ったり,圧力を加えることなどから,多くの足の障害の原因になり現在に至っている。そこでわれわれは,正常な人間の足と脚の機能を重視した靴の作製に取り組む必要に迫られている。

p.33
(※一部誤植訂正)
石塚忠雄 著(1992)『新しい靴と足の医学』金原出版株式会社、pp.32,33

足の特徴と内振れ

前述のとおり、平均的な足に対して内振れの度合いが大きい靴が望ましくないことが指摘されています。
ここからは、「外反母趾」と「偏平足」というよく耳にするであろう疾患、足の特徴と内振れの相性について取り挙げます。

軽度の内振れは外反母趾の防止・軽減に寄与

https://thefootpractice.com/foot-ankle/bunions/

強い内振れは足の障害の原因になる一方で、軽度の内振れにはメリットもあります。
それが、外反母趾の防止・軽減です。
内振れがあるというのは、靴の先端を親指側に曲げているということであり、親指側に空間が生まれ、外反母趾になりづらくなります。
外反母趾に悩む人は女性に比べて男性の方が少ないことが知られていますが、これは一般的に紳士靴には程度の差こそあれ内振れがあることや、ハイヒールほどのポインテッドトー(尖ったつま先)が稀であること等ラスト(靴の型)が影響していると考えられます。

外反母趾発生の防止、あるいは本症の軽減のためには、足趾が足先中央に「しぼり込まれない」ような、靴底の前足部が軽度内反する、「内振れ」Inflareのある靴が、理論的にも実地においても効果的である(図1)。

加藤正,阿部学:前足部の型と靴.第1回 日本靴医学研究会学術集会 論文集,pp.35,36, 1986.

過度な内振れは偏平足と相性が悪い

https://activ8posture.com/posture-dictionary/pronation/

多くの日本人は、土踏まずのアーチが低下あるいは消失する偏平足であると言われています。
一般に土踏まずの潰れは、踵が内側に倒れ、つま先が外側を向く回内足を助長します。(上図)
※健康な足でもかかとはわずかに内側に傾き、つま先はやや外向きですが、回内足はそれらの度合いが大きい状態です。
このつま先が外を向く回内足に対して、つま先を内側に寄せる内振れの度合いの大きい靴を着用するのは、靭帯・腱等に負荷をかけることになります。

The more curved the last, the less support there is under the arch of the foot. A flat or low arch matches up best with a straight last, while a medium to moderately low arch matches up best with a semistraight last. A high arch is best paired with a curved last. In my experience, too many people wear curved last shoes that cause their feet to collapse excessively and strain the foot and ankle.
ラストがカーブしているほど、足のアーチの下でのサポートが弱くなる。平らなアーチや低いアーチはストレートラストが最適で、中程度からやや低いアーチはセミストレートラストが最適。アーチが高い場合は、カーブしたラストが最適。私の経験では、多くの人がカーブしたラストの靴を履いているため、足が過度に崩れて足や足首に負担がかかっている。

 Paul Langer, Great feet for life: foot care and footwear for healthy aging, Minneapolis: Fairview Press, 2007, p.122

おわりに

今回は、靴の内振れについて解説しました。
軽度の内振れは外反母趾の防止・軽減に効果的ですが、内振れの強い靴は、足の障害の原因になる可能性があり、特に、偏平足の人にとって望ましくありません。

冒頭に述べたように、高級紳士靴においては内振りが効いていてよいとだけ言ってその度合いの強さによる足に対する悪影響に言及しないという無責任かつ危険な売り文句があります。
ネクタイや時計と異なり、健康に直結する靴は、専門的な知識をもつフィッターのアドバイスのもとに購入することが望ましいのは言うまでもありません。

今回は、以上になります。
ご感想、ご質問、リクエスト等お気軽にコメントください。
ではまた次の機会に。

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