はじめに
近年、ドレスコードを緩和する動きの中で、カーディガンがじわじわと注目を集めています。
スポーツコートの下に着用するのはもちろんのこと、カーディガン単体でもビジネスシーンで見かけるようになりました。
今回は、着用機会が増えているカーディガンに関する歴史や着こなしを解説したいと思います。
カーディガンとは
上半身に着用するニットには、フロントボタン等による前身頃の開閉、袖、襟といった構成要素があり、これらの有無の観点からカーディガンの定義を考えたいと思います。
日本国内において、一般にカーディガンというと、長袖のフロントボタンのあるニットをイメージされると思いますが、いくつかの辞書等を参照すると、定義には差異があります。
当記事では、前身頃の開閉ができる上半身に着用するセーター(袖、襟の有無は問わない)と定義します。
フロントボタン等前身頃の開閉 | 袖 | 襟 | |
---|---|---|---|
LONGMAN(英) | あり | - | - |
Cambridge Dictionary(英) | あり | あり | - |
Oxford Learner’s Dictionary(英) | あり | あり (jacketの一種) | - |
Merriam-Webster(米) | あり | - | なし |
The Britannica Dictionary(米) | あり | - | - |
Esquire’s encyclopedia(米) | ー | ありなし両方 | なし |
辞書等記載の定義
a sweater similar to a short coat, fastened at the front with buttons or a zip
LONGMAN
ショートコートに似たセーター、フロントはボタンかジッパーで留める。
a piece of clothing, usually made from wool, that covers the upper part of the body and the arms, fastening at the front with buttons, and usually worn over other clothes
Cambridge Dictionary
通常はウール製であり、上半身と腕を覆う衣服で、前身頃をボタンで留め、通常は他の衣服の上に着用する。
a jacket made of wool like a sweater but fastened with buttons down the front
Oxford Learner’s Dictionary
セーターのようなウールのジャケットだが、フロントはボタンで留める。
a usually collarless sweater or jacket that opens the full length of the center front
Merriam-Webster
通常、襟のないセーターやジャケットで、前身頃の中央が全開になっているもの。
a sweater that opens like a jacket and that is fastened in the front with buttons
The Britannica Dictionary
ジャケットのように前を開け、ボタンで留めるセーター
cardigan Kind of knitting stitch; also a knitted sweater or jacket without a collar or lapels, made with or without sleeves. The cardigan was named for the 7th Earl of Cardigan, who led the charge of the Light Brigade in the Crimean War.
O.E. Schoeffler, William Gale, Esquire’s encyclopedia of 20th century men’s fashions, New York: McGraw-Hill, 1973, p.651
カーディガン ニットの一種で、上襟や下襟のない、袖つき又は袖なしのセーターやジャケットのこと。カーディガンの名は、クリミア戦争で軽騎兵の突撃を指揮した第7代カーディガン伯爵にちなむ。
カーディガンの歴史
カーディガンは、クリミア戦争時(1853~1856年)の英国軍司令官、第 7 代カーディガン伯爵ジェームズ・トーマス・ブルーデネル James Brudenell, 7th Earl of Cardigan にちなんで名付けられました。
1854年10月25日、クリミア半島南部のセヴァストポリ特別市バラクラヴァにて、カーディガン伯爵は軽騎兵を率い、無謀にも防御射撃の優れた準備の整ったロシア砲兵隊に対して正面攻撃を仕掛けました。
多数の犠牲者を出し、軍事的失策と評価される一方で、その勇敢さはイギリス国民の心を強く打ち、カーディガン伯爵は英雄として帰国しました。
カーディガン伯爵の名声とともに、クリミア戦争中にイギリス陸軍将校が着用していた梳毛で編まれたジャケットはカーディガンという名前で人々の間に広がっていきました。
※戦時中に将校が着用していたか等、諸説あります。
This jacket is named after the British officer who led the charge of the Light Brigade at Balaclava; it is knitted of worsted, or crocheted of Berlin wool, and your sister or cousins can make it, or they are not half as accomplished in the useful and ornamental arts as I take them to be. It is simply a jacket to fit the figure, long enough to come down over the hips; it buttons down the front, and the sleeves are tight at the wrists, which is a great point towards keeping you warm. These jackets may be seen in the stores, but the price is very high, except for poor, short things, ended soon after they were begun.
John Townsend Trowbridge, Lucy Larcom, Gail Hamilton, Our Young Folks Volume 3, Boston: Ticknor and Fields, 1867, p.164
このジャケットは、バラクラヴァの軽旅団の突撃を指揮した英国人将校にちなんで名付けられた。梳毛で編む又はベルリンウールでかぎ針編みすることによりつくられる。姉や妹、いとこでも作れるが、彼女らは工芸と美術の両面とも私が思っているほど半分も熟達していない。体型に合った上着で、お尻にかかるくらいの長さがある。前身頃にボタンがあり、袖は手首が締まっていて、保温性に優れている。このようなジャケットは店でも見かけるが、値段は非常に高く、みすぼらしく短いものを除いては、販売開始後すぐに売れ切れてしまう。
Long-sleeved military jacket of knitted worsted, trimmed with fur or braid and buttoned down the front. It was worn by British Army officers during the Crimean War and named after the 7th Earl of Cardigan, James Thomas Brudenell (1797-1868), who led the Charge of the Light Brigade. In the 20th century the style, minus the collar, was adapted for sportswear. The cardigan became a popular garment with home knitters, and knitwear manufacturers produced a variety of styles and designs based on a woolen (or wool mix) garment which buttons down the front and has long sleeves.
毛皮又は帯状に編み込まれたパーツで縁取りされ、前身頃にボタンが付いた梳毛で編まれた長袖のミリタリージャケット。クリミア戦争で英国陸軍将校が着用し、軽騎兵の突撃を指揮した第7代カーディガン伯爵ジェームズ・トーマス・ブルーデネル(1797~1868)にちなんで名付けられた。20世紀には、襟を除いたスタイルがスポーツウェアに転用された。カーディガンは家庭でニットを編む人たちに人気の衣服となり、ニットメーカー各社は、ウール又はウール混紡・長袖・前ボタン付きのスタイルをベースに、さまざまなスタイルやデザインを生み出した。O’Hara, Georgina, The Encyclopedia of Fashion: From 1840 to the 1980s, London: Thames and Hudson Ltd., 1986, p.62-63
Before the close of the year Cardigan had been invalided home. In England he was lauded in the press, dined with the queen, attended banquets in his honour, and was greeted in Northampton by the strains of ‘See the conquering hero comes’. The United Service Club even made him an honorary member. He was also created KCB (7 July 1855), commander of the Légion d’honneur, and knight second class of the Medjidie.
Oxford Dictionary of National Biography
年が明ける前にカーディガンは帰国した。イギリス国内で彼は新聞で賞賛され、女王と食事をし、彼の栄誉を称える宴会に出席し、ノーサンプトンでは『征服する英雄がやって来るのを見よ』の歌声で迎えられた。ユナイテッド・サービス・クラブは彼を名誉会員とした。1855年7月7日には、バス勲章(Knight Commander of the Order of the Bath (KCB))、レジオンドヌール勲章、メジディ勲章二等騎士に叙せられた。
https://www.oxforddnb.com/display/10.1093/ref:odnb/9780198614128.001.0001/odnb-9780198614128-e-3765
このようにカーディガンはミリタリーウェアの出自をもちますが、その動きやすさと暖かさからゴルフ等のスポーツウェアに取り入れられていきました。
By the early twenties golf and golf apparel had come of age. The leading professional golfers were wearing knickers of tweed, linen or flannel with knitted cardigan jacket. These men served as fashion leaders for the weekend golfers.
O.E. Schoeffler, William Gale, Esquire’s encyclopedia of 20th century men’s fashions, New York: McGraw-Hill, 1973, pp.352-353
20年代初頭には、ゴルフとゴルフウェアは一時代を築いた。一流のプロゴルファーたちは、ツイードやリネン、フランネルのニッカーボッカーズにカーディガンを合わせていた。彼らは週末ゴルファーのファッションリーダーとなった。
Sears, Roebuck continued to promote sweaters aggressively and, in 1927, featured a heavy single-breasted coat style with a large shawl collar and the shaker knit with knit-in pockets, as well as pullovers in plaid patterns or jacquard designs for wear on the golf course.
O.E. Schoeffler, William Gale, Esquire’s encyclopedia of 20th century men’s fashions, New York: McGraw-Hill, 1973, p.354
シアーズ・ローバックはセーターを積極的に宣伝し続け、1927年には、ゴルフコースで着用するための格子柄やジャカードデザインのプルオーバーだけでなく、シェーカー編みの大きなショールカラーにポケットのある重厚なシングルブレストのセーターを取り挙げた。
サイズ
スポーツコートの下に着用するか、スポーツコートの代わりとして単体で着用するか、によって選ぶカーディガンは異なります。
前者の場合、無理なくスポーツコートの下に着用できるよう、体に沿ったフィッティングや薄手のものを選ぶ必要があります。
また、バランスを考慮すると、スポーツコートの着丈よりも短い着丈のものを選ぶ必要があります。
一方、後者は、前者よりもフィッティングや厚み、着丈の許容範囲が広がります。
ローゲージの厚みのあるカーディガンであれば、タイトなフィッティングはむしろ避けるべきであり、古典的な視点では、手を下したときに手首のあたりか、ややそれを超えるくらいの十分な着丈があることが望ましいです。
着こなし
基本的な着こなしは、以前ご紹介したフェアアイルニットの着こなしにて解説した内容と相違ありません。
加えて、タートルネックをインナーにしてカーディガン含むセーターを着るといったレイヤードルックがありますが、これは1960年代によく着用された装いであり、比較的新しい着方といえます。
(補足:Vネックプルオーバーとタートルネックといった組み合わせはその後見かけることが少なくなり、廃れた着方といえます。経験則でいえば、その組み合わせはやや違和感があり、ニットオンニットであれば、後述のようにタートルネックとそれよりも厚手のショールカラーカーディガンの組み合わせが現在においても見栄えがするものだと思います。)
この際には、カーディガンはスポーツコートの代替品と考えてください。
つまり、カーディガンの着丈をタートルネックに比べて十分に長くしてバランスをとる必要があります。
素材感についても、カーディガンをバルキーなものにして、インナーのタートルネックとの違いがわかるようにすると見栄えがします。
ショールカラーカーディガンを選ぶのもよいと思います。
Esquire decided that 1964 was “the time of the turtle,” in that the turtleneck sweater had moved out from undergraduate circles to reach a new level of elegance. The “layered look” surfaced that year too, in V-neck sweaters equipped with their own turtleneck, crew neck, or “fake” shirt collars.
O.E. Schoeffler, William Gale, Esquire’s encyclopedia of 20th century men’s fashions, New York: McGraw-Hill, 1973, p.364
エスクァイア誌は1964年を「タートルの時代」と位置づけ、タートルネックセーターが学生の世界から抜け出し、エレガンスの新たなレベルに達したとした。タートルネック、クルーネックあるいはフェイクシャツカラーの上にVネックセーターを合わせる「レイヤードルック」が表面化したのもこの年であった。
If you want to layer a cardigan over a rollneck, think of the top piece as outerwear so you can take it off to avoid overheating when you are indoors. Shawl-collared cardigans work well here – especially those with texture such as cabling. Or choose a piece that is cut like a jacket with lapels and patch pockets – look for cardigans in boiled wool that will contrast with the texture of the rollneck.
https://www.mrporter.com/en-us/journal/fashion/mens-style-guide-how-to-wear-rollneck-turtleneck-polo-neck-layer-1412422
タートルネックの上にカーディガンを重ね着したいのなら、カーディガンを上着と考え、室内にいるときは脱いでオーバーヒートを防ごう。この場合、ショールカラーのカーディガンがよく似合う。あるいは、ラペルとパッチポケットが付いたジャケットのようなカッティングで、タートルネックの質感とコントラストをなすボイルウールのカーディガンを選ぶ。
Another surrogate jacket look would be the shawl-collar or other button-front-model sweater. As it is a multi-ply wool garment, its weight tends to confine it to cooler climes, but as a long-sleeve cardigan with hip pockets, this knitwear classic can serve either as a jacket for a dressed-down necktie ensemble or as a finishing top over a turtleneck or woven sport shirt.
Alan Flusser, Dressing the Man, New York: Harper Collins Publishers, 2002, p.264
クラシカルなスポーツコートに代わるもうひとつの選択肢は、ショールカラーや前身頃にボタンの付いたセーターだ。多本取りのウールの衣類なので、その重さゆえに寒冷な気候に限定されがちだが、身頃にポケットが付いた長袖カーディガンはニットウェアの定番であり、ドレスダウンしたネクタイやタートルネック、スポーツシャツに合わせることができる。
おわりに
今回は、カーディガンの歴史、着こなしについて解説しました。
カーディガンはスポーツコートのインナーとしても、スポーツコートの代わりとしても使うことができるアイテムです。
前者として着用する場合は、体に沿ったフィッティング、嵩張らない厚み、スポーツコートよりも短い着丈のものを選ぶ必要があります。
後者として着用する場合は、厚みのあるものを選ぶことができます。
厚みのあるカーディガンは、程よくゆとりのあるもの、手を下したときに手首のあたりか、ややそれを超えるくらいの十分な着丈があることが望ましいです。
今回は、以上になります。
コメント、リクエストがあればお気軽にどうぞ。
ではまた次の機会に。
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